多くの農業団体が新しい農業法を歓迎(米国)
2018年12月20日、今後5年間の米国農業政策の基本となる新しい農業法にトランプ大統領が署名した。新しい農業法では、農業リスク補償(ARC)や価格損失補償(PLC)(注1)の強化、酪農分野におけるセーフティネットの改善、作物保険の維持・改善、口蹄疫ワクチンの備蓄などの家畜衛生対策への資金投入などの農業政策が変更された。
(注1)ARCは、当該年の生産者の収入が保障水準を下回った場合に、その差の一部を補てんするプログラム。PLCは、市場価格が一定水準を下回った場合に、その差の一部を補てんするプログラム。
米国農務省(USDA)のパーデュー農務長官は、トランプ大統領の署名後、以下の声明を公表した。
「トランプ大統領による法への署名は、米国の農業にとってクリスマスプレゼントとなり、12月20日は農家、牧場経営者、林業者などにとって素晴らしい一日となった。農家は毎年、経営上の経済的リスクを負っているが、農業法が整備されたことは将来の決断をするに当たり彼らに安心感をもたらすだろう。2017年にこの農業法の議論が開始されて以来、私は常に、農業法は革命的ではなく進化的であるべきだと信じてきた。
新しい農業法は、セーフティネットプログラムを強化し、連邦作物保険を守り、強固な農村地域開発および研究開発を維持する。新しい農業法は、2014年農業法で不足していると考えられていた、保障水準の引き上げと掛け金の減額を行い、酪農マージン保護プログラム(MPP)を作り直す。また、この法には、3つの家畜衛生プログラムに資金を投入する新たな家畜疾病予防管理プログラムが含まれている。これには、口蹄疫に焦点を当てた新たなワクチンバンクと、我々の国境を守り食品の安全性を向上させるための米国動物衛生研究所ネットワークの予算拡大が含まれる。
森林管理改革や補充的栄養支援プログラム(SNAP)受給者認定における労働要件についてさらなる進展を望んでいたが、これらの分野を改善するために我々が持つ権限を行使することを楽しみにしている。総合すると、これは生産者に歓迎されるべき農業法であり、我々USDAは農業法の各施策を熱心に実施していく。USDAは、議員が法を作成するに当たり、議会に技術的支援を提供することができたことを嬉しく思っている。私は、この法における大統領のリーダーシップに感謝し、何カ月にもわたる大変な労力について上院と下院の農業委員会を称賛する。」
また、各農業団体は、新しい農業法に対しておおむね好意的な反応を示している。主な農業団体の声明の概要は、以下のとおりである。
アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)(注2)
この2018年農業法は、すべての米国人に役立つ完全なパッケージである。特に、農家や牧場経営者たちは、多くの人々が直面している農業経済の長期的な不況を乗り切るために必要な、優れたリスク管理の支援を得ることができる。
全国農業者組合(NFU)(注2)
NFUの会員は、米国の農業における不透明な将来に向けた農業法の支援を受けることができて安心している。議会の農業委員会のリーダー達は、前農業法で必要とされていた改良を加え、家族経営農家の持続可能性と新興市場を補助するプログラムを継続した。我々は将来的に、家族経営農家にセーフティネットを提供するプラットホームを築かなくてはならない。我々は、農家にかなりの財政的なストレスを与え、多くを離農させた驚くほど低い農家価格の6年目を迎えている。この苦痛は、農家価格をさらに押し下げることとなった国際貿易およびバイオ燃料政策における政権の不手際によって悪化させられてきた。2019年に向けて、NFUは、直近の農家の経済状況の実態を反映した、より強固なセーフティネットと米国の家族経営農業の成長への関与を求め続ける。
(注2)AFBF、NFUともに農家を会員とした農業団体。AFBFが共和党系の団体とされているのに対し、 NFUは民主党系の団体とされている。NFUの会員は、家族経営農家が主体である。
全米生乳生産者連盟(NMPF)
NMPFは、酪農家にとって必要な改善が施された農業法にトランプ大統領が署名したことに感謝する。我々は、いくつかの新たなプログラムを迅速に実施するためにUSDAと協力できることを楽しみにしている。トランプ大統領は、米国の農業者の重労働を称え、農業者を手助けする議会の努力に言及した。
乳業界は、低乳価に直面する酪農家を支援する新たなプログラムにより、今回の農業法における大きな勝者として注目されている。
国際酪農食品協会(IDFA)
価格のリスク管理と消費拡大は、IDFAの重要な優先事項である。この新しい法は、酪農家と乳製品製造業者に力を与えるとともに、消費者の健康を増進させ、米国経済活性化の一助となるだろう。
米国食肉輸出連合会(USMEF)
USMEFは、新しい農業法を支持した上院議員と代表者、そして年末までに法が採決されるよう取り組んだ上院と下院のリーダーシップに感謝する。
新しい農業法には、米国の農業の成功と競争力にとって重要な多くの条項が含まれている。この法律の重要な側面の1つは、USDAの市場アクセスプログラム(MAP)と海外市場開発プログラム(FMP)(注3)への予算を維持したことによる、米国の農産物の国際的な普及促進への継続的な支援である。これらのプログラムによる支援は、米国の豚肉、牛肉、羊肉およびその他の製品の世界的な需要拡大のための重要なツールである。
(注3)MAPは、小規模企業や農業団体向けのブランドPRやプロモーション活動を目的としたプログラム。FMDは、農産物の長期的な輸出市場の拡大および維持、新規市場開拓を目的としたプログラム。
全米豚肉生産者協会 (NPPC)
言うまでもなく、農業法は米国の農業にとって非常に重要である。2018年農業法は、畜産業にとって特に良い。なぜなら、海外の家畜疾病から、我々の家畜、食料供給および経済を守るための予算が含まれているからである。
米国大豆協会 (ASA)
新法の5年間のうち4年間、農家に郡のARCプログラムとPLCプログラムのどちらかを選択するオプションを提供するなどの改善を称賛する。これにより、農家は今後数年間、海外市場や価格の変動に対応できるだろう。また、融資単価(ローンレート)の引き上げは、低利融資を必要とする農家にとって有益となるだろう。
全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)
我々の最優先事項であった賢固な作物保険プログラムの維持に加え、自然災害に見舞われた年の収量補償の改善など、ARCを強化してくれたことを歓迎する。また、現時点で農業にとって特に重要な貿易促進プログラムへの拠出額の増加も歓迎する。
米国砂糖連盟(ASA)
価格低下、異常気象、諸外国の補助金や不公平な貿易状況は、ここ数年、米国の砂糖生産者やそれらを支える14万2000人の砂糖関連従事者を厳しい状況に晒していた。この農業法は、現在の困難な状況から生産者が息を吹き返し、状況を好転させる助けとなる。
現在、米国経済は好景気の最中にあり雇用状況も良好でトランプ大統領が標榜する強いアメリカを体現しているように思えるが、農業分野は他の分野に比べて貿易紛争の影響を受けて厳しい状況に置かれている。そんな中、農業法の成立は、農業生産者にとっての朗報となるであろう。
【調査情報部 平成30年12月27日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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