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2019年以降の牛肉需給見通し(米国)

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 1月30日から2月1日にかけて、ルイジアナ州ニューオーリンズで開催された全米肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)の年次会合では、CattleFax社による牛肉需給見通しが示された。
 同社は2019年の米国の牛肉需給に関して、(1)米国の牛肉生産量が過去最多を更新する中、(2)好景気に支えられて米国内外の牛肉需要は堅調に推移し、(3)同年の米国産牛肉輸出量は前年比6%増、などと総じて楽観的な展望を示した。同社による見通しの詳細は下記の通りである。

1 2019年の気象見通し

 エルニーニョ現象は明らかにピークに達しており、NOAA(米国海洋大気庁)とECMWF(欧州中期気象予報センター)のモデルでは、夏にかけて徐々に低温傾向がみられ、夏の終わりか秋までには、ほぼニュートラルな状態になることが示されている。また、大気の循環に関しては、西海岸沖に高気圧帯が生じ、五大湖周辺には気圧の谷ができるようになると見込まれている。
春になると気圧の尾根はロッキー山脈に移動し、これは北西部と南部平原に降雨をもたらす可能性がある。一方、穏やかな偏西風がメキシコ湾岸の水分を南方に押さえ込むため、米国の東部3分の1は乾燥が生じると見込まれる。また、偏西風は北西部に移動するため、南西部にも乾燥が生じるとみられる。冷涼な2月を終えると、米国は比較的温暖な春を迎えるが、作物の作付けには遅れが生じるとみられる。
 夏場の天候は、エルニーニョ現象の衰退速度によって異なってくる。今後8カ月間は、ラニーニャ現象は生じないとみられ、今年の夏の米国南部は雨に恵まれると見込まれる。一方、メキシコ沖の海面水温が高いことにより、南西部では活発な季節風が生じる可能性がある。また、発達した夏場の季節風によって、カナダとの国境沿いには強い高気圧が形成され、晩夏までにはコーンベルトには高温と乾燥が、そして一部で干ばつも生じると見込まれている。
エルニーニョ現象によって、アルゼンチンには降雨がもたらされる一方、ブラジル中央部では乾燥が進むとみられ、この傾向は少なくとも3月まで続くと見込まれる。一方、豪州では同現象による干ばつが全土に広がっており、この傾向は秋の作物作付けシーズンまで続くとみられる。

2 米国経済

  • 個人消費:2018年は、年初の減税と好調な雇用市場を背景に、前年比2.7%増となった。2019年は、こうした要因による増加効果は逓減する見込み。
  • 実質GDP成長率:2018年の第3四半期は前年同期比3.5%増。
  • 株式市場:2018年10月に史上最高値に回復するも、年末にかけて急落。今後数年間のうちに景気後退が生じる可能性も。
  • 米国の景気減速により、2019年後半に消費者の牛肉需要を危うくする可能性がある。

3 飼料

  • 米国産トウモロコシに対する需要は、米国畜産部門の拡大に加え、エタノール業界からの、歴史的に見ても強い関心によって支えられている。
  • 米国産大豆は、生産量が記録的に多かった一方、輸出量は減少したことから、期末在庫は9億ブッシェル(2286万トン)を超えた。これは従来の最多記録よりも3億5000万ブッシェル(889万トン)多い過去最多水準である。
  • 2019年の作付面積は、トウモロコシは前年比200万エーカー(81万ヘクタール)増の9100万エーカー(3683万ヘクタール)、大豆は同220万エーカー(89万ヘクタール)減の8700万エーカー(3521万ヘクタール)、小麦は100万エーカー(40万ヘクタール)増の4900万エーカー(1983万ヘクタール)と見込まれる。
  • 米国農務省によれば、期末在庫率はトウモロコシが11.8%で、大豆は23.3%とされている。このように供給量は十分であることから、2019年上半期のトウモロコシおよび大豆の価格変動は、需要動向次第で左右されると考えられる。
  • 2019年上半期のトウモロコシ先物価格の現実的な範囲は1ブッシェル当たり3.60米ドル〜4.10米ドルと見込まれる。
  • 2019年の乾草生産面積に大きな変化はみられないが、冬の降水は下層土水分を増加させ、2019年の生育期間に良い影響を与えるとみられる。
  • 生育期間も引き続き好天が続くため、生産量が増え、農場在庫は増加し、乾草その他の粗飼料の価格に下げ圧力が加わるとみられる。

4 牛肉需給

(1)飼養頭数および牛肉生産量

  • 2019年1月1日現在の米国の肉用経産牛飼養頭数は推定3190万頭であった。肉用未経産牛保留率および肉用繁殖牛淘汰率の動向をみると、肉用牛生産現場では牛群拡大期から安定期に移行したとみられる。
  • 2019年、フィードロット飼養頭数は増加することが見込まれている。2019年1月1日現在の、フィードロット外の肥育もと牛/子牛の頭数は2650万頭近くに達したが、これは前年比1.5%増である。
  • 2019年の牛肉生産量は273億ポンド(1238万トン、前年比1.6%増)と、過去最高を更新する見込み。なお、2020年は前年比2.2%増、2021年は同1.0%増と、2020年代は年を追うごとに増産トレンドが鈍化すると見込まれるが、ピーク時には280億ポンド(1270万トン)を超過すると見込まれる。
  • 輸出量が増加する一方、輸入量は減少するため、2019年の牛肉供給量は前年同様になる見通し。2019年の一人当たり牛肉供給量は前年並みの56.9ポンド(25.8キログラム)と、安定して推移する見込み。
  • 2019年の豚肉生産量は前年比3%増、ブロイラー生産量は同1%増と見込まれる。いずれも輸出量は増加傾向で推移するも、その傾向は牛肉よりも緩やかであるとみられる。こうしたことから、一人当たり食肉供給量は、前年から1ポンド増の218.8ポンド(99.2キログラム)と見込まれる。

(2)国内牛肉需要

  • 2018年の牛肉需要は堅調であり、消費者支出額は緩やかな上昇傾向で推移した。2019年、米国消費者の一人当たり牛肉消費額は約325米ドル(前年比2%増)と見込まれる。
  • 2019年も牛肉は小売り段階で豚肉や鶏肉よりも高値で購入されるとみられ、牛肉小売価格は前年比1%高の1ポンド当たり平均5.72ドルと見込まれる。
  • 高い賃金と雇用環境の回復は牛肉需要を後押ししているが、一方で物価のインフレを招いているため、実質的な牛肉小売価格は実際には前年比3セント安と見込まれている。
  • 高品質な牛肉の生産量が増加していることは、牛肉需要にも恩恵をもたらしている。チョイス級以上の牛肉の生産量は2019年、5年連続で過去最多記録を更新する見通し。また、プライム級およびチョイス級は、牛肉生産量のおよそ80%を占める見込み。
  • 生体牛の供給頭数が増加している中で、と畜場での処理速度向上は限界に近づきつつあるため、今年も牛生産者の交渉力は損なわれると見込まれる。

(3)世界の食肉需要

  • 米国で肥育牛以外の牛のと畜頭数が増加していることに加え、豪州における牛肉生産量の減少およびメキシコにおける牛肉消費量の増加によって米国の牛肉輸入需要は限定的になる見込み。
  • NAFTA改めUSMCAの交渉は完了しているが、中国および日本との貿易協定については注視する必要がある。なお、CPTPPは米国なしで成立している。
  • 日米間の二国間貿易交渉が進行中。しかし、貿易環境が今後も混乱するようであれば、米国の食肉および穀物の貿易にとって悪影響を及ぼす可能性がある。
  • 2019年の米国の牛肉輸出量は前年比6%増の33億ポンド(150万トン)、輸入量は同4%減の28.5億ポンド(129万トン)と見込まれている。
  • アフリカ豚コレラは中国で蔓延しており、終息の目処はみえていない。
  • 中国は世界の豚肉生産量の半分を占めている。中国の豚肉供給減は、米国の豚肉輸出に恩恵をもたらす可能性がある。米国の豚肉輸出量は2019年には前年を4%上回り、60億ポンド(272 万トン)を超過すると見込まれている。
  • 米国のブロイラー輸出量は前年比1.5%増の70億ポンド(318万トン)と見込まれている。

(4)価格見通し

  • 生鮮牛肉小売価格:1ポンド当たり5.73米ドル(前年比0.06米ドル高)・・・小売業者やレストランは、米国の消費者により多くの食肉を販売することを試みている。小売業者が、値段や宣伝に積極的な姿勢を示し続ける場合、牛肉業界はシステムを通じて供給量を増加させることが可能である。USDAは2019年の生鮮牛肉価格については、1ポンド当たり5.55米ドル〜5.90米ドルと見込んでいる。
  • 牛肉卸売価格(カットアウトバリュー):100ポンド当たり 216 米ドル(前年比4米ドル高)・・・ 卸売牛肉の価格上昇は、米国内および世界による比較的強い牛肉需要と、継続的な物価上昇の反映である。USDAは2019年のカットアウトバリューを100ポンド当たり195米ドル〜230米ドルと見込んでいる。
  • 肥育牛価格(去勢牛):100ポンド当たり117米ドル(安定)・・・2019年には、肥育牛市場は100ポンド当たり130米ドル付近で推移も、同100米ドルまで低下するリスクがある。肥育牛供給頭数は増加しているが、パッカーの処理能力に大きな変化はない。したがって、価格交渉の場面では、引き続きパッカーおよび小売業者の交渉力が強くなると見込まれる。
  • 750ポンド去勢牛の価格:100ポンド当たり147米ドル(前年比3米ドル安)・・・肥育もと牛供給頭数が増加する一方、肥育部門での収益性が限定的になっていることから、肥育もと牛価格には下落圧力が加わる見通し。2019年、750ポンドの去勢牛価格は100ポンド当たり130米ドル〜160米ドルで推移すると見込まれる。
  • 550ポンド去勢牛の価格:100ポンド当たり164米ドル(前年比9米ドル安)・・・2018年に比較的堅調であった子牛相場は2019年、軟調に推移する見通し。春には100ポンド当たり180米ドル台半ばにまで達する可能性があるが、子牛供給頭数が増加する一方、需要には軟化リスクがあるため、秋には同140米ドルまで下落する可能性がある。
  • ユーティリティ級経産牛価格:100ポンド当たり55米ドル(前年比4米ドル安)・・・直近数年間にわたり牛群が拡大してきたことに加え、酪農部門における収益性が悪化していることにより、経産牛のと畜頭数は増加する見通し。しかし、と畜向け頭数の増加は相場に下落圧力を加えるとみられる。ユーティリティ級経産牛価格は春には100ポンド当たり60米ドルの高値をつけるも、秋には下落し、40米ドル台前半で推移するとみられる。
  • 繁殖牛価格:1頭当たり1550米ドル(前年比100米ドル安)・・・牛群拡大が終わり、子牛市場が軟化するにつれて、雌牛に対する需要は弱まる見込み。2019年、米国で飼養される繁殖雌牛の価値は、1頭当たり1,200米ドル〜1,800米ドルで推移するとみられる。

5 懸念材料

  • 貿易環境:中国との貿易協議や日本との二国間協定に関する議論について今後の動向を注視する必要がある。USMCAについては今後、発効に向けて議会で批准される必要がある。
  • 経済:米国経済は堅調に推移しているが、経済学者たちは2019年後半から2020年にかけて景気が後退する可能性を懸念しており、もし後退すると昨今の堅調な所得および支出によって支えられている牛肉需要に影響を及ぼす可能性がある。
  • 政治環境:下院は民主党が多数を占めているため、トランプ大統領が主導する政策項目が保留される可能性がある。ねじれ状態に伴う膠着状態は今後2年間にわたるとみられ、2020年選挙にも大きな注目が集まることと予想される。
  • 農業経営の収益性:過去5年間の平均をみる限り農場レベルの収入は損益分岐点上にあるとみられる。この結果、あらゆる部門で統合が加速しており、農業経営に影響が生じている。
  • 金利:米国連邦準備制度理事会(FRB)は、2019年にもう一度利上げを実施する可能性がある。
会場の様子
会場の様子
【野田 圭介 平成31年3月5日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9533