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EU・メルコスール(Mercosur)貿易協定交渉、政治合意

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 欧州委員会は6月28日、EUとメルコスール(南米南部共同市場)(注)間の自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)について、政治合意に達したことを公表した。
 
(注):アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国で発足した関税同盟。2019年7月2日現在、ボリビアが加盟について各国議会の批准待ち。ベネズエラが加盟資格停止中。)
 
 欧州委員会は、プレスリリースの中で、「今回の貿易協定の締結により、EU・メルコスールの両地域で7億8000万人の市場が生まれ、両地域の政治的・経済的な関係はより強固なものになる」とし、また、「本協定により、最高レベルの食品安全と消費者保護、食の安全に係る予防原則、環境に関する規則が支持される。本協定は、労働者の権利と、パリ協定の実現を含む環境保護に関する具体的な言明も含むものである」とした。
 
 合意に際し、ユンカー欧州委員会委員長は、「本協定は、大西洋の両岸の企業、労働者、経済にとって素晴らしいニュースであり、年間40億ユーロを超える関税を削減するものである。なお、EUにとってはこれまで締結してきた貿易協定の中で最も大きなものである」とコメントした。さらに、マルムストローム貿易担当欧州委員は、「年間40億ユーロを超える関税の削減は、日EU経済連携協定(日EU・EPA)の4倍に相当する規模である」と評価した。
 ホーガン農業・農村開発担当欧州委員は、「本協定によって、EUの農業者を含めた両地域の関係者は、機会と利益を公正かつ安定的に得ることができる。また、EU産の品質の高い農産品はメルコスールでも保護されることにより、市場での地位は保証され、輸出機会は拡大するだろう」と期待しつつ、「今回の合意で、EUの農業者にとってはいくつかの課題も発生するが、欧州委員会は、それらの課題を解決するための支援を行うつもりである。また、この協定が両地域にとって有益なものとするため、EUの農業者の生活を脅かすことのないよう、メルコスール産の農産品は管理された割当量に限り開放する」とした。
 
 本協定により、EU・メルコスールのほとんどの製品について、関税が撤廃される。メルコスール側は、最長10年の移行期間(一部の品目については、最長15年間)を経てEUからの輸入の91%を完全に自由化し、EU側は、最長10年の移行期間を経て、メルコスールからの輸入の92%を自由化する。
 
 牛肉についてみると、EUは、メルコスールに対し、EUが設定している高級牛肉の低関税輸入枠である「ヒルトン枠」の関税率(20%)を撤廃し、また、新たに、毎年均等に枠を拡大し6年目には9万9000トン(枝肉重量ベース)となる低関税枠(関税率7.5%)を設ける。
 また、チーズについては、双方が、毎年均等に枠を拡大し、10年目に3万トンとなる関税枠を設ける。枠内の数量については、10年をかけて均等に関税率を削減し、現行の関税率から無税となる。
 なお、本協定により、EUで保護される地理的表示(GI)がメルコスールでも保護され、EU側については、フランスのGIチーズであるコンテなど357のGI産品が保護されることになる。
 
 報道によると、今回の政治合意については、欧州の主要産業団体の多くが支持を表明しているとのことである。しかしながら、EU最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(COPA-COGECA)は、合意を受けて、「EUとメルコスール間の農産物の生産基準は、環境やアニマルウェルフェア、食品安全の点でEUの生産者により負担がかかっており、二重基準である」とし、「メルコスールからの農産品の輸入が増えることにより、あるEUの重要な農業部門に、存続が危ぶまれるような事実上の二重基準と不公平な競争が生じるおそれがある」とコメントしている。
【前田 絵梨 令和元年7月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
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