英国食肉加工協会、BREXITによる貿易への影響などについて発表
英国食肉加工協会(BMPA:British Meat Processors Association)は7月9日、英国のEU離脱(BREXIT)に伴う貿易への影響などについて、通商政策アドバイザーであるピーター・ハードウィック氏による分析を、同協会のホームページにて次のとおり発表した。6月5日に開催されたBMPAによるBREXITに関する会議の様子と併せ、一部、補足的な説明を加えながら紹介する。
BREXIT後、摩擦のない貿易を成し遂げられるか
この記事を読み終わるまでの時間内に、13台のトラックが英仏海峡トンネルまたはドーバー港を通過し、英国に入出国できる。このように書けば、それほど大変なことと感じられないかもしれないが、実際には大きな問題である。計算は単純である。毎年、約420万の運送貨物がドーバー海峡を通過しており、これは7.5秒に1台に相当する。これは、英国が世界唯一の完全に機能した関税同盟である、欧州連合(EU)の単一市場の一国であるため可能である。
見解はEU離脱時点で(国境)通過がどのように規定されるかによって異なるであろうが、その「待機時間」を例えば1分とした場合、その影響を想像するのは難しくない。「待機時間」について言及するのは、実際、現在は待機時間はなく、その8秒(前述の7.5秒のこと)は、トラックがどれだけの速さで列車やフェリーから出発できるかによって決まるからである。毎年460万台以上のトラックやバンが越境している北アイルランド(英国の一部)とアイルランド共和国(EU加盟国)間では、この不便さを克服する必要はない(北アイルランドとアイルランド間では別の議論がされている)。さて、英国にとって良いBREXITモデルはどこにあるだろうか。
ノルウェー(非EU加盟国)とスウェーデン(EU加盟国)の国境などいくつかの例が挙げられる。両国の国境は、全長1630キロメートルの間に10の国境検問所があり、それらすべてで最低でも片側には税関検査場がある。通行する商用車の中には事前に許可済のものもあるが、そうでない場合は運搬する商品の検査に要する書類の提出および許可を得るため、並ばなければならない。ノルウェーとスウェーデンの国境検問所での平均待機時間は8分であるが、混雑日には数時間かかることもある。
ノルウェーは、EUと関税同盟を結んでいないものの、単一市場には入っており、移動の自由の原則(人、モノ、資本、サービスの自由移動)に署名しているため、国境検問所の負担は大幅に軽減されている。重要なことは、EU規制との提携を保っていることである。これは、関税に関する諸問題を克服するものではないものの、動物検疫や公衆衛生面での検査を要さずに商品が越境できることを意味する。しかし、このモデルは、英国に義務を課す(EU規制との提携を要する)ものであり、政治的に容認されるには課題が多い。そのため、明らかに答えにはなり得ない。
英国は、比較的摩擦のない貿易を確保するには、EUとどのような機能的なパートナーシップを進展させる必要があるのだろうか。それは、他の地域との独立した貿易政策よりも、近隣諸国との貿易関係における重要性によるところが大きい。すべての分野を説明することはできないが、中国向け豚肉輸出のようなEU域外市場との貿易の成功例がいくつかあるものの、近隣であるため、同じような輸送時間で国内生産と直接競合することになるEUとの貿易の代わりになるものはない。
EUとの関税同盟は、自由貿易協定(FTA)がなければ関税により大打撃を被るであろう、貿易関係を維持するために何かしらの方法を取るとみられるものの、規制を緊密に連携しない限り、問題解決にはならない。EUを離脱することは、英国がルールを受け入れる側から、ルールを作る側になることを意味するのではない。第3国市場への輸出を行う企業は、輸入国側のコンプライアンスを守らなくてはならない必要性を理解している。要するに、EUに輸出をしたいのであれば、我々はEUの規則に従わなければならない。
スイスは、EUと二国間獣医協定を結んでおり、合同の獣医委員会が協定の実施状況を監視している。これにより、規則に相違があれば、双方で議論のうえ解決策を見出せるよう、高度な連携が確保されている。この事例は全ての課題に対する回答にはならないかもしれないし、EUとの貿易における英国の規模と重要性を鑑みれば、英国独自の解決策が必要となる。それがなければ、現在のレベルに近い摩擦のない貿易を維持することは、夢物語になるであろう。
BMPA、BREXITをテーマにロンドンにて会議開催
BMPAは6月5日、「BREXIT. What Next?(BREXIT、次は?)」と題し、英国ロンドンにて100名ほどの関係者を参集し、会議を行った。
同会議で講演したピーター・ハードウィック氏らは、「BREXITは関係業界に対し、国境、関税のみならず、雇用問題や衛生関係などでも大きな問題を生じさせる」と懸念を示した上で、その具体的な影響については、「EUとの交渉がどのように進展するのかいまだ見えておらず、先行き不透明な状態にある」とした。しかし、「英国消費者の食の安全が第一の優先事項であり、我々は業界団体としてそのために必要となるメッセージを発信していきたい」とした。また、「具体的なものは見えないものの、BREXITの影響を最小限にするため、EU以外の日本も含めた輸出市場が引き続き重要になるであろう」という見解を示し、英国食肉加工業界のEU域外市場の拡大の重要性も示した。講演の中では、BREXITは「No”Easy”deal(容易ではない取引)」だと、合意なき離脱を意味する「No deal」をもじり、先の見えない英国、または業界の不安感を表現するような一幕もあった。
BMPA主催のBREXITをテーマとした会議の様子。英国を中心に欧州各地から関係者100名程度が集まった。
【調査情報部 令和元年7月19日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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