貿易紛争の影響に苦しむ農家の救済策第2弾の詳細を発表(米国)
7月25日、米国農務省(USDA)のパーデュー長官は、トランプ政権が自由かつ公平で相互的な貿易交渉を行う間に生じる、農業生産者への影響を緩和することを目的とする160億ドル規模の救済策の詳細を公表した。
今年5月、トランプ大統領の指示の下、パーデュー長官は不当な報復関税やその他の貿易紛争の影響により米国農産物が被っている推定損害額を補填するための支援策を設計した。具体的には、2018年8月に発表された支援策とされる、市場活性プログラム(MFP:Market Facilitation Program)、食品買上げ配賦プログラム(FPDP:Food Purchase and Distribution Program)、貿易促進プログラム(ATP:Agricultural Trade Promotion Program)の3種類がより強化され、実施されることとなる。
市場活性プログラム(MFP:Market Facilitation Program)
商品金融公社(CCC)(注)の権限の下、MFPは各農場サービス局(FSA)で2019年7月29日から12月6日まで受付を行う。
(支払い対象)
・一般作物:アルファルファの干し草、トウモロコシ、ソルガム、大豆、綿花、小麦等
・その他特殊な作物:アーモンド、クランベリー、ピスタチオ等
・生乳
・豚
(注)農務省内に存在する公社。農業所得の維持や農産物の供給調整などを行う機関。
(支払額算出方法)
前回から支払い方法が変更され、農作物の種類ごとの生産量を基準に算出するのではなく、農家が所在する郡における支払い対象となる作物の作付面積に応じて算出されることとなった。
作物に関しては、2019年に農場でMFP対象作物の総作付面積に対して、各郡で定められた1エーカー当たりの支給額(15〜150ドル)を乗じた値が支給額となる。各郡に割り振られた支給額は貿易紛争による影響度合いを考慮して決定された。生産者は2018年の作付面積以上は申請できず、申請する面積は2019年8月1日までに作付していなければならない。
酪農家は、2019年6月1日時点で経営を行っていた生産者が対象となり、生産履歴から算出された生産量100ポンド当たり0.2ドル(前回は0.12ドル)の支払いを受ける。
養豚農家は、2019年4月1日〜5月15日の間の任意の1日の飼養頭数に基づいて、1頭当たり11ドル(前回は8ドル)の支払いを受ける。
総額は145億ドルとなる。
(支払日)
MFPの支払いは3回に分けて行われ、最初の支払いは8月中旬から下旬にかけて行われる。初回の支給は生産者の総支給額の50%または1エーカー当たり15ドルのどちらか高い方になる。残りの2回は、本年11月と翌年1月初旬に予定されているが、市場の状況や貿易状況を勘案して決定される予定である。
(支援対象者)
一般作物、その他特殊な作物、酪農、養豚のそれぞれの生産者個人または1法人に対する支給額の上限は25万ドル(前回は12万5千ドル)であり、それぞれの部門を兼業していたとしても、支給額は最大で50万ドルとなっている。申請者は2015年〜2017年の調整済粗収益が90万ドル未満であること、農業所得が75%以上であること、「著しく侵食を受けやすい土地および湿地の保全」に係る規則を遵守していること等のいくつかの条件が設定されている。
食品買上げ配賦プログラム(FPDP:Food Purchase and Distribution Program)
FPDPは果物、野菜、加工食品、牛肉、豚肉、羊肉、家きん肉、生乳などの報復関税等の影響を受けている余剰商品の買い上げを行うことで、農業マーケティング局(AMS)を通じて最大14億ドルの支援を実施する予定となっている。これらの食品は、食糧栄養局(FNS)がフードバンク、学校、その他の低所得者向けの配給に振り分ける。
AMSは、対象となる商品を2019年10月1日以降、4回に分けて購入し、初回購入分は2020年1月以降に配給される。商品の購入時期は、商品の成育または生産状況、市場の状況、貿易交渉の状況等を勘案して決定される。
貿易促進プログラム(ATP:Agricultural Trade Promotion Program)
商品金融公社(CCC)の権限の下、ATPは海外農業局(FAS)が管轄となる。ATPは、海外で消費者向け広告、広報活動、店頭での販促、見本市や展示会への参加、市場調査、技術支援などの活動を行う米国の適切な団体に対して資金援助を行う。USDAはATPを通じて米国の農家と牧場主が新たな輸出市場を認識し、進出する支援を行っており、48団体に対して総額1億ドルを支給した。
資金援助を受けた48団体は、2019年1月に総額2億ドルのATPの資金援助を受けており、これらの団体は不当な報復関税や貿易混乱の影響を受けた農家への支援の一環として、輸出拡大の活動に努めている。一例として、米国大豆業界による包括的なマーケティングの努力により、50以上の海外市場での販路を開拓した。
パーデュー長官のコメント
・中国やその他の国々はこれまでの長い間、不公平な貿易状況を改善する役目を果たしてこなかったが、トランプ大統領はこの問題に立ち向かう初めての大統領であり、彼は対象国に対して、米国はこれ以上不公平な貿易状況に我慢できないという明確なメッセージを送っている。本日公表された支援策は、米国農家は一人で不当な報復関税等に苦しむ必要がなくなることを保証するものである。昨年の支援策が非常に効果的であったことから、これらの支援策をベースに、幾つか点を改善しさらに強力な支援策を講じる。米国農家は世界で最も勤勉で生産性が高いことを認識しており、政府は米国農家の熱意と愛国心に見合った支援を行っていく。
各団体のコメント
・各団体ともに、前回よりも強化された支援策に対して、概ね好意的な声明を発出している。
全国豚肉生産者協議会(NPPC)会長のディビッド・へーリング氏
米国の養豚農家は輸出市場に大きく依存しており、生産量の25%を海外市場に輸出している。1年以上も続く貿易紛争による深刻な損害を被っている養豚農家にとって、部分的ではあるにせよ、救済策を講じてくれたトランプ政権に感謝している。米国産豚肉は世界で最も安全で高品質で手頃な価格であり、米国養豚業界は世界中の市場で平等な条件で公平な競争を行う機会を得ることを変わらず求めている。最優先事項はアフリカ豚コレラの発生により、歴史的なビジネスチャンスが生じている世界最大の豚肉消費国である中国との貿易紛争を終結させることである。また、日EU・EPAやCPTPPにより競合国にシェアを奪われている日本との貿易交渉の締結も望んでいる。
米国大豆協会(ASA)会長のデイビー・ステファン氏
貿易紛争の損害を強く受けている農作物の割合が高い郡に所在する農家は、貿易紛争による損害以上の支援金を受けるだろう。我々は、今回の支援策を実施したトランプ政権に感謝し、米国農家がどこで何を作付けしようと、今回の支援策によりいくらかの安堵感が得られることを望む。
全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)会長のリン・クリスプ氏
トウモロコシ農家は春期の悪天候、貿易紛争、報復関税、エタノール市場の崩壊という困難に直面していることは周知の事実である。このような中、USDAが公表した支援策であるMFPの第2弾は歓迎すべきものであり、ある程度市場での損害を緩和するだろう。MFPの支援がトウモロコシ農家にどのような恩恵をもたらすか楽しみにしている。
全米生乳生産者協会(NMPF)会長兼CEOのジム・ムルハン氏
我々は、報復関税により深刻な損失を被った酪農家を支援するためのUSDAとホワイトハウスの努力に感謝する。1年前に報復関税が本格的に始まってから、全米の酪農家はこれまでに23億ドル以上の収入を失った。USDAの新しい支援策は、昨年の支援策よりも強力なものになっている。これは正しい方向への歩みの第一歩となる。一方、支払いの根拠となる古い生産履歴が更新されることを要請する。米国の酪農家は世界市場で成功するためには支援ではなく、貿易が必要である。中国との貿易紛争を解決し、他の貿易相手国との関係を積極的に拡大や強化することも不可欠である。また、米国の酪農家にとって新しい機会を生み出すであろうUSMCAを早期に通過させるよう、政権や議会と協力している。
全米農業生産者連盟(NFU)会長のロジャー・ジョンソン氏
現在の貿易紛争が始まるかなり以前から、家族経営の農家や牧場主は生活を守るために苦労していた。慢性的な供給過剰と商品価格の下落により、6年連続で農業経済は悪化し、ほとんどの部門で赤字を強いられてきた。しかし、トランプ政権の貿易政策により、市場は不安定となり農作物は急激な価格変動を起こし、状況はさらに悪化している。今年の春は、農家は何の農作物を作付けするべきか判断できない状況であった。そのような状況下であるため、今回のUSDAによる支援策は感謝している。一方、各郡によって支援基準価格が違うために、一部の農家が不利益を被る可能性があること、支援策には供給過剰と価格下落に対する対策が含まれていないことが残念である。将来的には、農家に確実性と安定性がもたらされることを政権に強く要請する。
貿易紛争による影響を緩和させる支援策の第2弾は前回と比べて全体の予算額が増額されており、米国農家はある程度安心感を得たはずである。一方、9月1日以降、中国からの輸入製品3000億ドルに対して10%の関税を賦課するという新たな追加関税政策をトランプ大統領がツイッターで宣言するなど、米中貿易紛争は終結の兆しを見せていない。いつ、米国農家の多くが待ち望む今後の明るい見通しが得られるのか、引き続き注目される。
【調査情報部 令和元年8月7日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際情報グループ)
Tel:0335834397