世界貿易機関(WTO)は、10月2日、EUによる欧州大手航空会社エアバスへの補助金が不当だとして、米国がEUに課すことのできる報復関税の範囲を年間74億9662万米ドルとする報告書を発表した。
これを受け、米国通商代表部(USTR)は同日、10月18日から対象とするEU産品に追加関税を発動することを発表した。
米国が追加関税を予定している産品および税率は、大きく2つに分けられ、フランス、ドイツ、スペイン、英国の大型の民間航空機が10%、EU28カ国の農産品およびその他の製品が25%となっている。なお、対象となる農産品およびその他の製品は、国ごとに品目が指定されている。
対象の農産品には乳製品も含まれ、業界団体によるとほとんどのチーズ、バター、スプレッド、乳たんぱく濃縮物(MPC)など、ヨーグルトが含まれるとのことである。
EUにとって米国は、チーズおよびバターの最大の輸出先国である。2018年のEUのチーズ輸出量(83万2474トン)およびバター輸出量(12万8018トン)に占める米国向けの割合はそれぞれ、チーズが16%(13万3628トン)、バターが22%(2万7881トン)となっている。
一方、欧州委員会も同日付けで、声明を発表した。声明の中で、マルムストローム貿易担当欧州委員は、米国がWTO紛争解決機関から権限を付与されたとしても、今、報復措置を執行することは、近視眼的であり、逆効果であるとした。また、EUと米国(ボーイングへの補助金)は共に、WTO紛争処理制度のもとで、航空会社に違法な補助金を提供しているWTO協定違反とされてきたことから、EUも、今後数カ月以内に米国に対して報復措置を講じる権利を与えられるだろうとした。
このような中、欧州酪農協会(European Dairy Association:EDA)は、10月3日付けで声明を発表した。
EDAは、声明で、本ケースの解決策は、航空業界内で見つけるべきとしている。また、EDAのAlexander Anton事務局長は、「米国のチーズ愛好家が、航空業界の争いのために、エアバスのプロジェクトに参画している国(フランス、ドイツ、スペイン、英国)の乳製品をより高い価格で購入しなければならない理由を見つけることができない」とし、「農産物、ひいては農村は、現在、貿易紛争の人質と見なされており、受け入れがたいものである。これは、米国とEUのみならず世界中の農業食品ビジネスに余計な負担をかけるだけでなく、食品価格にも影響を与えるものである」と警告している。