英国農業園芸開発公社(AHDB:Agriculture and Horticulture Development Board)(注)は10月17日、米国の欧州連合(EU)に対する追加関税措置によるEU産乳製品への影響について分析した記事を掲載した。
今回の追加関税は、欧州大手航空会社エアバス社へのEUの補助金が不当だとして、米国が世界貿易機関(WTO)の承認を受け、EUからの輸入品に対して合計約75億ドル(約8250億円)の報復関税として発動したものである。なお、報復関税の規模としては、WTO史上最大のものとなっている。
(注)AHDBは、牛・羊肉、豚肉、酪農、穀物・菜種、ばれいしょ、園芸作物の販売促進、輸出プロモーション、市場調査、研究開発、情報収集など、さまざまな活動を行っているイギリスの団体。
AHDBは今回の記事の中で、米国が10月18日からEU産農産品およびその他の製品の一部に25%の報復関税を課すとしており、多くのEU産乳製品が対象になるとした。追加関税の対象となる乳製品はEU加盟国ごとに品目が異なるが、英国ではほぼすべての米国向けのバターおよびチーズが対象となっている。
品目別にみると、チーズについては、EUからの輸出量および金額の両面で最大の乳製品であるが、今回の措置を2018年輸出量ベースで試算すると、約75%もの量が追加関税の対象となる。加盟国別ではイタリアが最大の輸出国であり、米国が輸入するチーズの約5分の1を占め、同国産チーズのほぼすべて(99%以上)が追加関税の対象となる。なお、フランスもまた、米国向けの主要なチーズ輸出国であり、2018年に2万4000トンのチーズを輸出したがフランス産の一部チーズは対象から除外されている。AHDBは、現試算では米国向けフランス産チーズの約96%が追加関税の対象であるが、輸出品が追加関税の対象外であるチーズに移行するかどうかに関心があるとしている。
バターについても、米国は重要なEUの輸出仕向け先となっている。アイルランド産バターが最大シェアであり約半分を占めるものの、同国産バターはすべてが追加関税の対象となる。
AHDBは、追加関税の発動により、米国市場におけるEU産乳製品はより高価になり、米国市場での競争力は低くなるとした。また、輸出事業者は、追加関税分をコストに吸収するか、製品の代替市場を探す必要があるとしている。
統計でみると、2018年のEU産チーズ輸出量およびバター輸出量に占める米国向けの割合はそれぞれ、チーズが16%、バターが22%となっている。
なお、欧州委員会のセシリア・マルムストロム通商担当委員は10月18日、今回の米国の報告関税の発動を受けて、EU側としてもWTOルールに基づいた上での対抗措置を講じることになるであろうことを表明している。