豪州は夏期に山火事がたびたび起きることで知られている。しかし、2019年11月からの山火事は、被害人数、面積が前例のない規模となっている。2020年1月7日時点で、豪州全土で10万頭を超える家畜が山火事の被害にあっているという現地報道もある。
2019年11月8日以来、東部を中心として発生した山火事は、干ばつによる乾燥状態が影響し、火の勢いが収まらず、2カ月以上燃え続けている。豪州の山林には、コアラの餌となるユーカリが群生しているが、このユーカリは油を多く含んでいるため、火の勢いが衰えにくい原因の一つともされている。
1月9日時点で、この山火事により730万へクタール以上が焼失し、27人が死亡したと報道されている。農業被害については、火災が進行しているため、全容は把握しきれていないものの、豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)の最新の情報によると、重大な被害を受けた地域における家畜の飼養頭数は、牛で豪州全体の9%、羊で13%に上る。
今回の山火事は、主要な酪農地域であるニューサウスウェールズ(NSW)州南部のサウスコーストやビクトリア州東部の東ギプスランドにも及んでいる。これらの地域の酪農家では、山火事により人や家畜への被害のほか施設や飼料が焼失するといった被害が発生している。また、山火事により道路が寸断され、タンクローリーが通れず生乳が集荷できない地域や停電の発生およびその長期化により、緊急用発電機による搾乳が困難となっている地域もあり、こういった地域では生乳廃棄が行われている。さらに、道路の寸断により不足する飼料の搬送が困難な地域があるとの報道もある。
NSW州第一次産業省では、被災農家に対し緊急的な飼料や水の提供、家畜の治療、死亡または淘汰した家畜の埋却などの支援を行っている。同省のコメントによると、1月7日時点で山火事により確認された死亡または淘汰家畜は牛や羊を中心に6284頭に増加し、このうち約5200頭はクリスマス以降に発生している。最終的に同州での死亡または淘汰家畜数は、2万頭程度になるのではないかとの見方もある。
このような状況を受け、連邦政府は1月6日、新たに国の山火事復興機関を立ち上げ、被災者向けに、向こう2年間で20億豪ドル(1520億円、1豪ドル=76円)規模の支援を決定した。また、すでに支援を実施している州政府もあり、NSW州は1月9日、これまでの予算を増額し10億豪ドル(760億円)の拠出を決定した。