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豪州農業省、酪農業界の行動規範を策定、1月1日に発効(豪州)

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 豪州農業省は12月13日、酪農業界の透明性と公正性を高める施策として進めていた法的拘束力を持つ行動規範(Dairy code of conduct。以下「行動規範」という)の策定を予定よりも早く完了し、その内容を発表した。
 行動規範は豪州の競争・消費者法に基づき策定されており、その背景は、2016年にマレー・ゴールバン社(現在は、サプート・デーリー・オーストラリア社)、豪州フォンテラ社が年度終盤に過去にさかのぼっての乳価の引き下げを行い、多くの酪農家が苦しんだことが引き金となっている。策定過程において、一時は酪農家に不利な内容が盛り込まれる可能性も報道されていたが、最終的には酪農家の権限が強化され、酪農家団体に受け入れられる内容となり決着した(注1)
 行動規範は、2020年1月1日に発効し、すでに酪農家と生乳購入者(乳業、集乳業者、酪農協等。以下「生乳購入者」という)(注2)の間で結ばれている契約も、12カ月以内に行動規範に対応する必要がある。
 行動規範により、生乳購入者は、毎年6月1日までに各年度(7月〜翌6月)の標準的な契約書の様式をウェブサイト上で公表することが必要となる。
 生乳購入者は、複数の様式を公表することが出来るが、必ず独占的でない供給契約の様式を公表しなければならない。一定の状況下における独占的供給契約の様式を公表することもできるが、この場合は、(1)同じ状況下での独占的でない契約の様式を公表しなければならず、(2)独占的供給契約において、「最大出荷量」や「二重価格」を設定してはいけない、とされている(注3)。すなわち、生乳購入者は、酪農家に対して、複数の生乳購入者に生乳を供給する契約を結ぶ選択肢を与える必要がある。
 行動規範に違反した場合、豪州競争・消費者委員会(ACCC)が調査を行い、結果によっては罰金が科せられる。
 また、酪農家と生乳購入者間の契約は基本的に書面により行うこととなり、口頭契約の場合も30日以内に生乳購入者が契約内容を書面にして酪農家に提出する必要がある。
 契約内容に含めることが義務付けられた主な点は以下の通り。
・生産者支払乳価の最低価格。契約期間を通じての単一の価格、月ごとの予定価格または長期契約の場合の年ごとの予定価格。
・契約の開始日と終了日(生乳購入者が酪農協以外の場合)。
・14日間のクーリングオフ期間の設定。
・生乳の品質と、必要な場合は量の条件、サンプリング方法など。
・生乳購入者が供給された生乳を拒否できる場合の条件および契約した品質や量に見合わなかった場合の生乳の処理方法。
・契約変更に関する条件と、生乳購入者による一方的な契約変更は原則禁止である旨(注4)
・生乳購入者が一方的に将来の最低価格を引き下げるのに必要な手続き(過去にさかのぼっての価格の引き下げは禁止)(注4)
 なお、行動規範は、規模にかかわらず、生乳購入者と酪農家が互いに誠実に対応する義務を罰金付きで定めているが、生乳購入者が小規模企業(前年度の総売上が1000万豪ドル(7億9000万円:1豪ドル=79円)未満)の場合は、その他の義務の対象外となる。また、酪農家から生乳を購入する法人が対象となるため、生乳を処理しない小売業者が直接酪農家と取引する場合の契約は対象となるが、その小売業者と乳業メーカーが結ぶ契約は対象の範囲外となる(図)。


注1:行動規範の策定の背景については、2019年1月28日付け海外情報「豪州農業・水資源省、酪農業界の行動規範を法制化へ」https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002378.htmlを参照されたい。
注2:原文では、「processor」で、「生乳を処理するかしないかにかかわらず、酪農家から生乳を購入するまたはしようとする法人」と定義されており、生乳を処理しない酪農協や集乳業者も例示されている。
注3:「独占的供給契約(exclusive supply agreement)」は、「酪農家が他の生乳購入者に生乳を供給することを禁じる契約」と定義されている。
「最大出荷量(maximum volume)」は、「酪農家が、契約に基づき期間内に生乳購入者に供給できる最大の生乳量」と定義されている。
「二重価格(tier pricing)」は、「一定量の生乳の最低価格が、その量を超過して供給される生乳の最低価格より高いこと」と定義されている。
注4:生乳購入者が契約を一方的に変更できる場合は、以下の2つの場合のみとなる。

・労働、健康、安全などに関する法律改正により生乳購入者または酪農家がそれに従わなければならない場合(この場合、契約上の最低価格を引き下げることはできない。)
・突発的な輸出市場の閉鎖やバイオセキュリティにおける緊急事態など、予測不可能な状況となった場合(この場合、将来の価格を引き下げることが出来るが、変更の意向を事前にACCCへ伝えるとともに、30日前までに酪農家へ通知して、酪農家に契約解除の決定権を持たせる必要がある。)
 
図 契約の流れ
【菅原 由貴 令和2年1月16日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-4394