2020年1月29日、米国のトランプ大統領は米国―メキシコ―カナダ協定(USMCA)の実施法案に署名を行った。これにより、米国のUSMCA批准は完了し、USMCAの発効まで残すところはカナダによる批准のみとなった。
トランプ大統領は署名式典において、「USMCAは、歴史上最大かつ最も公正であり、近代的でありながらバランスの取れた貿易協定である。3カ国は非常に大きな恩恵を受けられるだろう。悪夢のような北米自由貿易協定(NAFTA)がようやく終わり、素晴らしい貿易協定に署名することができた。歴史上初めて、国外への業務委託を進めるような悲惨な貿易協定を、米国に雇用、豊かさ、成長をもたらす真に公正で互恵的な貿易協定に置き換えた。」と称賛した。
米国農務省(USDA)のパーデュー長官も同様に、「本日は米国農業にとって記念すべき日である。これまで、USMCAは批准されることはないと批判するものもいたが、トランプ大統領の交渉戦略が有効であることが一層証明された。USMCAにより、米国がビジネスにおいてオープンであることが世界中に示されることとなる。USMCAは米国の農家や牧場主にとって非常に重要なものであり、南北の隣国に対して更なる市場アクセスをもたらす。USMCAの経済効果が、すべての米国人、特に地方に住む米国人に繁栄をもたらすことを目の当たりにすることを楽しみにしている。」と称賛している。
USDAによれば、2018年のカナダとメキシコ向けの米国産食品および農産物の合計輸出額は397億ドル(4兆2876億円。1ドル=108円)であり、米国にとって最大の輸出先となっている。両国向けの農産物輸出により、32万5千人以上の米国人雇用者が支えられている。
NAFTAにおいてゼロ関税であった食品や農産物はそのままゼロ関税が維持される。また、新たに米国産乳製品、家きん肉および卵製品のカナダ向け輸出の機会が創出される一方、カナダ産乳製品、ピーナッツ、一部の砂糖や砂糖製品の米国向け輸出の機会が新たに創出される。
農業に関する主な変更点
・乳製品市場へのアクセス向上
米国の酪農家は、カナダ向けにより多くの種類の米国産乳製品の輸出機会を得ることになる。カナダは協定発効から6か月後に不公平なクラス6および7の乳価設定プログラム(注)を廃止する。
(注)カナダのクラス6およびクラス7の乳価設定の詳細については、「畜産の情報」2018年3月号「転換期を迎えるカナダ酪農乳業〜原料乳製品国家戦略導入の背景と影響〜」(
https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2018/mar/wrepo01.htm)を参照されたい。
・バイオテクノロジー
ゲノム編集などの新技術を含む農業バイオテクノロジーに対応し、技術革新の支援や貿易
歪曲的な政策の削減に取り組む。
・地理的表示
地理的表示の認証のための厳密な手順を設定するとともに、名称が一般的に用いられる名詞であるかどうかを判断する際に考慮すべき要件を明確にする。
・SPS(衛生植物検疫)措置
科学に基づき、ヒト、動物、植物の健康を保護しつつ、貿易の流れを促進するような規律を強化する。
・家きん肉および卵
米国産家きん肉および卵に対して、カナダの関税割当を適用し、新たな市場アクセスを確保。
第1段階の米中経済貿易協定の署名式と同様に、USMCAの署名式にも多くの米国農業団体の関係者が出席した。米国農業団体は、USMCAの批准を以下の通り称賛している。
〜主な農業団体の声明〜
アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)のデュバル会長
米国全土の農場や牧場で期待感が確実に増しており、また一歩USMCAの実施が近づいたことに感謝している。特に、酪農家や小麦生産者にとって、成果が待ち望まれている。もちろん、USMCAが発効してから、売り上げが増加するまでに時間がかかることは理解している。我々は、以前のように、世界中に安全で高品質な食品や農産物を供給することを熱望している。
全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)のヒューストン会長
米国の牛肉業界にとって、また別の大きな勝利に再び参加できたことを光栄に思う。USMCAの批准は、米中経済貿易協定、日米貿易協定およびEU向け市場アクセスの大幅な改善に続くものである。2020年が米国の牛肉生産者にとって真に歴史的な始まりとなることは明らかである。
全国豚肉生産者協議会(NPPC)のへリング会長
USMCAは米国豚肉生産者にとって最大の輸出市場である2カ国への供給を確実なものにする。北米地域での豚肉のゼロ関税が維持される貿易協定の発効を楽しみにしている。次は、最優先事項である中国向けのアクセス改善を期待している。
米国乳製品輸出協議会(USDEC)のヴィルサック会長
USMCAは貿易障壁を撤廃し、高品質な米国産乳製品に新たな輸出機会をもたらす大きな一歩となる。USMCAに含まれる強力な執行措置により、カナダとメキシコに説明責任を持たせ、USMCAにより得られる利益が確保されている。USMCAにより酪農業界で確保された成果に感謝している。USMCAの手続きが完了したことで、政府は他の重要市場の獲得のために動くことだろう。
米国大豆協会(ASA)のゴードン会長
USMCAは大豆生産者にとって主要な市場の2カ国へのアクセスを確保するものであり、大豆業界にとって重要な家きん業界や酪農業界も支援するものである。
米国トウモロコシ生産者協会(NCGA)のロス会長
USMCAは偉大な勝利であり、すでに確立されているメキシコおよびカナダとの貿易関係に則したものである。USMCAは、米国産トウモロコシが新たな市場を獲得するためのひな型として役立つだろう。
USMCAの発効にはカナダによる批准が必要であり、カナダが批准してから90日後に発効する。カナダは2019年秋に行われた総選挙まで批准を保留していたが、総選挙の結果、トルドー首相の再選が確定し、新たな連立政権が誕生した。カナダはUSMCAを阻止する意向は示していないため、数カ月以内にもカナダが批准するという楽観的な予測もあり、早期の協定発効が望まれている。
(参考:海外情報)米国、カナダ、メキシコ、新たな貿易協定に合意(北米)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002310.html