2020年 全米肉用牛生産者・牛肉協会年次会合より(1) パーデュー農務長官の発言要旨(米国)
2020年2月5日から7日にかけて、全米肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)の年次会合が開催され、テキサス州サンアントニオの会場には全米から9,000人を超える生産者や業界関係者が参加した。牛肉需給見通しをはじめ、米国牛肉産業に関するさまざまな情報が共有された同会合の模様について、3回に分けて報告する。
パーデュー農務長官の発言
初日に行われたオープニングセッションにはパーデュー農務長官が登壇した。同長官がNCBA年次会合に登壇するのは昨年に続き2回目だが、今回はジェニファー・ヒューストン会長からの質問に答える形式で、さまざまな話題に対し下記の通り見解を述べた。約15分間の対談の中で最も強調されたのは直近の貿易交渉の成果であった。一方で、植物性代替肉製品の話題で「幾つか試してみたが、あらためて自分の好みが分かった。私はいかなる時でもおいしくてジューシーな牛肉のハンバーガーを選ぶだろう」と述べると、会場は最も大きな拍手に包まれた。
(1)貿易交渉の成果を強調
第一に、日米貿易協定は牛肉部門にとって大きな成果だ。二国間協定において日本市場を再び開放し、競合国が他協定で得ている条件と同様の関税上の取り扱いを保証する低関税アクセスが米国産牛肉に適用される。
一方で、中国は米国の輸出成長にとってもう一つの大きな機会だ。米国産牛肉は14年にわたる禁輸措置の後、2017年の夏に中国のアクセスを獲得した。しかし、貿易戦争の影響から米国はその後もそのアクセスを最大限に活用することができていなかった。こうした中、米中協定における第1段階の合意によって米国の生産者はついにアクセスを活かすことができるようになり、さらにそれを拡大することまで可能となった(参考1)。すなわち、米国産牛肉に係る月齢制限の撤廃や、数種類のホルモンに関する最大残留基準の設定に関する条項などにより、米国産牛肉に係る非関税障壁が除去されたことは、やはり大きな成果だ。さらに、新協定には、中国の農産物購入義務に関して幾つもの“大きな数字”が記載されており、これら全ての義務は片務的に強制力のあるものなのだ。
しかし、新型コロナウイルスの影響によって、中国は第1段階合意の下で求められている購入水準の達成が難しくなるかもしれない。今のところ中国からは、輸入義務に関して柔軟に対応して欲しいといった要請を正式に受け取っていないものの、もし米国が同じ状況にあったらきっとそのような要求を行うだろう。加えて、もし中国が真に義務を果たそうとしている中でコロナウイルスが経済に大打撃を与えているのだとしたら、我々はそのことに理解を示すことになるだろう。
これら二つの協定に伴う米国産牛肉への需要拡大は、既に好調な国内需要と相まって、今年の牛肉部門の伸長に貢献するだろう。
(2)2019年の生体牛価格に期待
牛飼養頭数はわずかに減少しているが、これが今後の価格動向に良く作用することを期待する。2019年にはカンザス州の大規模牛と畜場での火災に伴う混乱が生じた
(注2)。火災後の生体牛市場動向調査
(注3)は継続しており、全ての生産者が公平に扱われるようにしたい。
(注2)牛肉供給量が減少する中、祝日に伴う需要増から牛肉卸売価格は上昇。一方で、と畜能力の不足から肉用牛生産者への支払い価格が下落した。なお、火災については、海外情報「
大規模牛肉加工処理施設で火災発生(米国)」を参照されたい。
(注3)USDAはカンザス州の大規模牛と畜場の火災直後から、これに伴う生体牛価格操作や談合などの競争の制限、その他不公平な取引の有無に関する調査を実施している。
(3)サステナビリティ(持続可能性)について
サステナビリティは米国の農業部門において大きな焦点となっているが、長期的にみて農業生産性が向上していることはポジティブな指標だ。農業生産性を向上させることは環境負荷を減少させることを意味すると考える。そして、われわれは温室効果ガスの排出という点において進歩し続けている。生産者の皆さんも、こうしたメッセージを消費者にもっと伝えるべきだ。
(4)植物性代替肉製品との競合
植物性代替肉製品との競合を肉用牛生産者は恐れることはない。植物性代替肉市場の大半は倫理的な理由などから食肉を忌避する消費者であることから、生産者が心配する必要はない。シリコンバレーやハリウッドでは大きな関心を集めているようだが、全米の食卓にこのような製品が並ぶとは思えない。
写真 ヒューストン会長と対談するパーデュー長官(資料:NCBA)
【野田 圭介 令和2年2月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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