生乳生産者団体である欧州ミルクボード (European Milk Board:EMB)(注1)は4月15日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による牛乳・乳製品市場の危機的な状況に対応すべく、EUレベルで自主的な生乳減産プログラムが直ちに実施されるよう、欧州委員会に要請したと発表した。
発表の中でEMB会長のErwin Schopges氏は、非常に危険な需給の不均衡から脱するためには、需要減に対して「一時的な供給の減少に応じなければならない」とし、「欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員に対し、自主的な生乳減産(プログラム)について直ちに実施するよう求めた」。また、EMB副会長のSieta van Keimpema氏も現状について懸念を示し、価格の急激な下落と生乳廃棄に対して、EUレベルでの自主的な生乳減産が実施されなければ、欧州全体の酪農部門は崩壊すると指摘し、現状に対する迅速な対応の必要性を強調した。
EMBは、同プログラムはEU全体で、かつ数カ月にわたって実施する必要があるとし、増産に制限をかける一方、自主的な生乳減産に応じた生産者には前年同時期比で減産分1キログラムごとに奨励金を出し、生産者が減産に応じる経済的環境を整えることを提案した。 一方、EU内で要請が上がっているバターや脱脂粉乳の民間在庫補助(PSA)や公的買い入れ(注2)については、需要のない乳製品在庫が市場圧力を緩和できないばかりかそれ自体が有害な圧力を生む、として、直ちに自主的な生乳減産を実施し、余剰生乳生産を防ぐ必要があるとした。
Erwin Schopges氏は、「今後も予期せぬ出来事が何度も発生する可能性があることは明らかである」とし、「われわれ生産者は、このことについて十分に準備ができている」と、発表を結んでいる。
欧州では、2016年に生乳取引価格が下落した際、共通農業政策(CAP)の共通市場規則(CMO)に規定される市場混乱時の特別措置として、生乳減産を目的とした自主的生乳供給計画の策定を可能とするEU規則を策定し、期間限定で施行したことがある。しかし、今回要請された自主的な生乳減産を実施する場合には新たな規則が必要となる。
一方、4月17日には、PSAの発動要請も含むEU全加盟27カ国の農業大臣による前例のない共同声明が欧州委員会に提出されており、欧州委員会はそれに応じるべく、PSA発動を中心とした例外的措置の検討を進めている。
注1:2006年に設立された16か国の21団体からなる生産者団体で、小規模生産者にも配慮した政策のあり方を志向する団体であると言われている。
注2:欧州委員会は、乳価の下支えとして、公的買い入れおよび民間在庫補助(Private Storage Aid:PSA)という市場介入措置を実施している。公的買い入れは、加盟各国のバターや脱脂粉乳の卸売価格が、あらかじめ設定された公的買入価格を下回った場合、当該国の機関が、製造業者または取扱業者の申請に基づき同価格で買い入れるもので、EU全体で買い入れできる上限数量が定められている。PSAは、バター、脱脂粉乳およびチーズ(地理的表示(GI)製品のみ)を対象に、大幅な価格の下落など欧州委員会が必要と認めた場合、一定量を一定期間、市場から隔離するため、在庫として保管する業者に対し、保管経費の補助が行われるものである。