欧州委員会は5月4日、前例のない新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、大きな打撃を受けている欧州連合(EU)の農産物および食品部門を支援するため、4月22日に発表していた例外的市場措置である追加対策を採択したと発表した。
欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員はプレスリリースの中で、COVID-19の影響により深刻な状況下にある生産者らに対し、「支援に必要な措置をただちに利用できるよう迅速に行動した」とした。また、農業および食品市場が深刻な打撃を受けたことに言及した上で、今回採択されたこれらの措置が「市場に正しいシグナルを送り、ただちに一定の安定をもたらすことを確信している」とした。さらに、欧州委員会は、引き続き関係者や欧州議会、各加盟国と密に連携をとり、状況を注視していくとした。
今回採択された追加対策は以下のとおり。
乳製品(脱脂粉乳、バター、チーズ)および食肉(牛肉、羊肉、山羊肉)を対象とする民間在庫補助(PSA)の発動。これにより、最短2〜3カ月、最長5〜6カ月の期間、該当製品を市場から一時的に隔離することが可能になる。市場供給量を減らし、長期的に市場を再均衡させることが目的で、申請は 5 月 7 日から開始され、終了は乳製品については6月30日まで、食肉については現時点では公表されていない。
隔離のために保管する民間事業者に対し、保管経費の補助が行われ、対象品目ごとの主な要件などは以下のとおり。なお、牛肉については、外食産業の閉鎖により特に需要が低下した、ステーキカット用に仕向けられるヒレやサーロインを含む月齢8カ月以上の生鮮または冷蔵の後四分体に対象が絞られた。また、チーズのみ上限数量を10万トンと示された。なお、各品目に割り当てられたPSAを含めて本対策に係る予算額については、市場を歪める可能性があるとして公表していない。
(注)民間在庫補助(PSA)とは、大幅な価格の下落など欧州委員会が必要と認めた場合、一定量を一定期間、市場から隔離するため、在庫として保管する業者に対し、保管経費の補助を行う制度である。
ワイン、青果物、オリーブオイル、養蜂を対象とした市場支援事業、および牛乳・乳製品、青果物を対象とした学校給食事業を柔軟に運用する。具体的には、青果物では、実施中の事業変更や一時中止に対する行政上の措置が緩和される。また、学校給食事業では学校が閉鎖されていた期間を補うため、実施期間の9月30日までの延長や、執行額にかかわらず翌年度への繰越が可能になる。
生乳、花き、加工用ばれいしょについて、共通市場組織(Common Markets Organisation:CMO)規則第222条に基づくEU競争法の適用除外が認められ、事業者自ら共同で、市場対策をとることができるようになった。これにより、市場安定のために生産者や関連団体自ら共同で、商品の市場からの隔離、無料配布、共同販売促進、計画生産を行うことが認められる。具体的な例として、生乳部門は共同で生乳生産を計画することができ、花きおよびばれいしょ部門は共同で市場から製品を撤去することができる。民間事業者による共同保管も認められる。
例外適用期間は6カ月間であり、花き、加工用ばれいしょは5月5日から、生乳は4月1日から遡及して適用される。農協などの生産者団体は、生乳生産量の計画等の対策とその結果を加盟国当局に報告し、加盟国は欧州委員会に通知しなければならない。また消費者価格をはじめとして、EU単一市場の機能が損なわれることがないよう注意深く監視される。
なお一部で求められていた生乳減産に対する奨励金支払いは、今回の発表には盛り込まれていない。
【参考(リンク先)】
今回採択された追加対策は、国家補助の増額、前払金の増額、補助金申請期限の延長などの、欧州委員会がCOVID-19対策として早期に採択した包括的な対策に続くものとなっている。
また、欧州委員会は今回の追加対策に加えて、EU各加盟国が、EUの共通農業政策(CAP)の第2の柱である農村振興政策の財源である農村振興基金の未使用分により、生産者および中小規模の農業・食品事業者に対し、最大でそれぞれ5000ユーロ(59万5000円:1ユーロ=119円)、5万ユーロ(595万円)の補償を年内に支払うことを可能とする新たな措置を欧州議会、EU理事会に提案するとしている。
【これまでに採択された対策(リンク先)】