中国が豪州の4つの牛肉処理場からの牛肉輸入停止を通告
5月12日船積み分から豪州産牛肉の輸入を停止
豪州連邦政府は5月12日、中国政府から5月11日に豪州の4つの牛肉処理場からの輸入を停止するとの通知があったことを公表した。豪州外務貿易省のサイモン・バーミンガム貿易・観光・投資大臣によると、今回停止となった理由は、中国向け牛肉の表示および衛生証明に関連するもので、1年以上前にさかのぼった事例もあるとしている。
一方、中国外務省報道官によると、豪州の牛肉処理場から輸出された牛肉の一部に、中国、豪州両国で合意している検疫、税関要件に抵触したものが混在していたためであり、このことについて、すでに豪州政府に通知し、調査と改善を要請したとしている。
今回、停止の対象となるのは次の4牛肉処理場(クイーンズランド州3カ所、ニューサウスウェールズ州1カ所)(表1)で、豪州の中国向け牛肉輸出量全体の約35%を占める。なお、4処理場の1日当たりと畜能力は合計で6600頭である。
今回の連邦政府の公表を受けて、食肉処理部門の業界団体である豪州食肉産業協議会(Austrarian Meat Industry Council:AMIC)は、会員の豪州食肉パッカーは、中国向け輸出について、表示を含めた厳格な技術的要件があることを承知しており、業界としてこの問題を厳粛に受け止め、連邦政府と連携し解決に向け取り組んでいくとしている。また、停止の対象となった食肉パッカーのJBSオーストラリアは、豪州農業・水・環境省(DAWE)より、同社の2工場について、5月12日船積み分から中国向け輸出を停止したとの知らせがあったとし、同省と連携し、解決に向けて取り組むとしている。
生産者団体の豪州食肉生産者事業団(Meat and Livestock Australia:MLA)によると、今回中国が通告した輸入停止措置の理由には、2019年の冷蔵および冷凍牛肉の一部における表示および証明書類の不一致も含まれるとし、今回の措置は、当該4処理場の製品について5月12日船積分からの輸入証明の発給を一時的に停止するもので、すでに輸送済のものは対象外であるとしている。また、AMICが連邦政府と緊密に連携し、事実確認や問題打開に向けて取り組むことを支援していくとしている。100カ国以上に牛肉を輸出する豪州は、輸出先の多様化が進み最大輸出先でもその割合は25%以下であることから、今後も引き続き安定的な輸出が可能であるとしている。
一方、クイーンズランド州政府は、今回の問題で同州の牛肉輸出産業関連の雇用者1万8000名のうち3200名の雇用が脅かされる可能性があるとして、連邦政府に対し問題拡大の回避を要請したと発表している。
中国は豪州産牛肉の最大輸出相手先
豪州にとって中国は、日本、米国、韓国と並び主要な輸出先である。2019年の同国向け牛肉輸出は、中国におけるASF(アフリカ豚熱)の発生に伴うタンパク質需要により急増し、輸出量が30万トン(全体の24%)、輸出金額が26億7000万豪ドル(1922億円 1豪ドル=72円)といずれも日本を抜いて最大の輸出相手先となった(図)。
一方、中国も、自由貿易協定(注)により低い関税で輸入することが可能な豪州から多くの牛肉を輸入している。しかしながら、近年の中国は輸入先国を多様化する動きがあるため、豪州が占める割合は減少傾向にある(表2)。
(注)豪州と中国との自由貿易協定については、海外情報「豪州政府、中国とのFTAに署名」(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_001296.html)を参照されたい。
このような共存関係にあると言える豪州、中国間では2017年にも同様の問題が発生したことがある。当時も中国は、表示の問題を理由として、今回輸入停止措置の対象となった4処理場を含む6処理場に対し輸入を停止し、解決までに数カ月間を要しており、今回も停止が一定期間継続すれば、中国における輸入状況に影響が生じることが想定される。また、豪州産牛肉の輸入における中国の動静は、牛肉の国際需給に影響を及ぼす可能性があることから、引き続き両国の対応について注視する必要がある。
【井田 俊二 令和2年5月22日発】
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農畜産業振興機構 国際情報グループ (担当:井田 俊二)
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