米国農務省は新型コロナウイルス感染症の影響を受けている生産者への支援策の詳細を発表(米国)
米国農務省(USDA)のパーデュー長官は5月19日、コロナウイルス食料支援プログラム(CFAP)のうち、生産者への直接支払いプログラムの詳細を公表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行の影響を受けた米国の農家や牧場主などを救済するため、最大160億米ドル(1兆7280億円:1米ドル=108円)の生産者への直接支援が行われる。また、多くのレストランやホテル、その他のフードサービスなどの閉鎖によって労働力に深刻な影響を受けている地域や地元の流通業者と提携し、30億米ドル(3240億円)分の生鮮青果物、乳製品、食肉を買い上げ、食料を必要としている米国人へ届ける、食品買上げ配給プログラムの実施が決まっている。
損失に基づく直接支払い
USDAによれば、CFAPは、COVID-19の影響で5%以上の価格下落に見舞われ、需要減少、生産過剰、出荷パターンや通常の売買が混乱した結果、多大な追加のコスト負担に直面している生産者に対して、極めて重要な財政的支援を行うものである。
農家と牧場主は、2つの財源から直接支援を受けることになる。
1つ目は、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security(CARES) Act)に基づく95億米ドル(1兆260億円)の財源である。これは、2020年1月中旬から2020年4月中旬までの間に発生した価格下落による農家への損失補償と、同期間に農場から出荷されたものの、その後販路を失い結果として損失が発生した果物や野菜などの園芸作物への支援に充てられる。
2つ目は、商品信用公社(CCC)憲章法に基づく65億米ドル(7020億円)の財源であり、それ以降の継続的な市場の混乱による生産者への損失補償に充てられる。
家畜
支払い対象となる家畜は、肉用牛、豚、2歳未満の若羊。支払い総額は、2020年1月15日から4月15日までの間に売却された頭数に、CARES Actに基づく1頭当たりの支払い額を乗じた額と、2020年4月16日から5月14日までの間における最大飼養頭数に、CCCに基づく1頭当たりの支払い額を乗じた額の合計額となる(表1)。生産者は所有する家畜・クラス別に、対象期間の販売額と最大所有頭数についての情報を提供しなければならない。
生乳
2020年1月から3月までの第1四半期に生産された生乳(廃棄された生乳を含む)の証明をもとに支払われる。
2020年1月から3月までの第1四半期に生産された生乳100ポンド当たり、同四半期の価格低下の80%に相当する4.71米ドル(509円、1キログラム当たり11.2円)を乗じた額と、第2四半期の生産量増加を考慮して第1四半期の生乳生産量に1.014を乗じた量100ポンド当たり、第1四半期の価格低下の25%に相当する1.47米ドル(159円、1キログラム当たり3.5円)を乗じた額が支払われる。
果物や野菜などの園芸作物
園芸作物については、(1)2020年1月15日から4月15日までの間に販売されたが5%以上の価格下落により損失が生じた農産物、(2)2020年4月15日までに農場から出荷されたものの販路を失い重大な品質劣化が生じた農産物、(3)2020年4月15日までに農場から出荷されなかった農産物や販売先が見つからないまたは見つかる見込みがないため、収穫できずに収穫適期が過ぎてしまった農産物が対象となる(表2)。
(1)に関しては、生産者は当該農産物の販売価格が記された売渡書などが必要となる。
(2)に関しては、生産者は販売先から代金が支払えないことが記された文書などが必要となる。これには、販売先に当該農産物を出荷した際に、契約条項をすべて満たしているにも関わらず代金が支払われなかった場合も対象となる。
なお、(1)、(2)はCARES Actの財源、(3)はCCCの財源が活用される。
トウモロコシや小麦などの穀物、大豆などの油糧作物部門
2020年1月中旬から4月中旬までの間に5%以上の価格低下を受け、在庫の販売コストが上昇している穀物や油糧作物が対象となる。生産者は、価格低下のリスクがあった2020年1月15日時点の対象作物の在庫量に基づいて支払いを受ける。支払いは、生産者の2019年の総生産量の50%または2020年1月15日時点における2019年産在庫量のいずれか小さい方に0.5を乗じた値に対して、CARES Actに基づく支払い額とCCCに基づく支払い額をそれぞれ乗じた額の合計となる(表3)。
生産者は、当該作物の2019年総生産量および2020年1月15日時点で販売されていない2019年産の総生産量についての情報を提出する必要がある。
羊毛
一定期間に5%以上の価格低下を受け、在庫の販売コストが上昇している羊毛が対象となる。生産者は、価格低下のリスクがあった2020年1月15日時点の在庫量に基づいて支払いを受ける。支払いは、生産者の2019年の総生産量の50%または2020年1月15日時点における2019年産在庫量のうち、いずれか小さい方に0.5を乗じた値に対して、CARES Actに基づく支払い額とCCCに基づく支払い額をそれぞれ乗じた額の合計となる(表4)。
生産者は、羊毛の2019年総生産量および2020年1月15日時点で販売されていない2019年産の総生産量についての情報を提出する必要がある。
受給資格
1個人または1法人につき全品目合計の支給額の上限は25万米ドル(2700万円)となっているが、法人に関しては、実際に経営や作業に従事する株主の数に応じて、最大75万米ドル(8100万円)まで受給できる可能性がある。申請者は2016年〜2018年の課税年度の平均調整総所得(AGI)が90万米ドル(9720万円)未満であることが必要である。ただし、AGIのうち75%以上が農業、牧場または林業関連の活動からの収入であれば、AGIに関する制限は除外される。また、「著しく侵食を受けやすい土地および湿地の保全」に係る規則を遵守していることなどのいくつかの条件が設定されている。
申請と支払い
5月26日から、USDAは農場サービス局(FSA)を通じて、損失を被った農業生産者からの申請受付を開始する。申請期間中に資金を確保できるように、生産者は申請が承認された時点で、最大支給額の80%を受け取ることができる。残りの支給額は、後日支払われる。
また、USDAは対象となる農作物の追加を検討するとして、特に種苗・苗木、水産物、切り花について生産者が価格の低下とコスト増に関する情報を求めている。
今回の発表に合わせてパーデュー長官は、「米国が新型コロナウイルス対策に取り組む中で、米国の農業界はこれまで経験したことのない状況に直面している。トランプ大統領は、米国の国を愛する農家、牧場主、生産者に支援が行き届くことを確保するためにUSDAに権限を委譲しており、USDAは農家などへの支払金が確実に届くよう迅速に取り組んでいる。これらの支払金は、米国の経済活動が再開して回復し、市場の需要が戻るまでの間、農家などが経営を維持するための一助となる。米国の農家などは立ち直る力があり、いつものように、自信と勤勉さと決意をもって、この難局を乗り切ることができるだろう。」と述べている。
【調査情報部 令和2年5月26日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9805