タイ工業省によると、タイのプラユット内閣は6月9日、サトウキビ農家を対象とした総額100億バーツ(346億円)(注1)規模の財政支援策の実施を承認した。これは、同国で2019年に発生した記録的な干ばつの影響によるサトウキビの大幅な減産や生産コストの上昇などにより、2019/20年度(10月〜翌9月)におけるサトウキビ農家の収益が大きく落ち込んだことに対するもので、今回の財政支援は農家への支援だけでなく、新型コロナウイルス感染症(COVID‐19)によって打撃を受けた地域経済を活性化させる狙いもあるということである。
支援予算のうち65億バーツ(約225億円)は、製糖工場に搬入したサトウキビ1トン当たり85バーツ(294円)の単価でサトウキビ農家に支払われ、農家は5000トンを上限に補助を受けることができる。残り35億バーツ(約121億円)は、近年の大気汚染抑制策(後述)として、焼き畑(注2)で収穫していないサトウキビのみを製糖工場に搬入した農家への支援として確保され、同7バーツ(24円)が上乗せされた同92バーツ(318円)が支払われる。
本支援策実施に当たりタイ工業大臣は、「2019/20年度は、干ばつによってサトウキビ生産量が当初予測の1億トンから7489万トンに減少したことに加え、生産コストは当初予測の同1,110バーツ(3,841円)から同1,419バーツ(4,910円)と増加し、サトウキビ農家にとって苦しい年となった。今回の施策は、特に小規模農家がサトウキビ生産に必要な資材を購入できる環境を整え、今後もサトウキビ生産に従事してもらうことを目的としている」と語った。
財政支援の手続きにはサトウキビ・砂糖委員会事務局(OCSB)と農業農協銀行(BAAC)が関与し、約18万人のサトウキビ農家に対し6月末までには補助金を交付することができると期待されている。当該対応に対しタイ国内のサトウキビ生産者団体4者は、同省などの関係者に感謝の意を表明している。
(注1)為替レートは1タイ・バーツ=3.46円(2020年5月末TTS相場)を使用した。
(注2)サトウキビのしょう頭部や葉を燃やした後に収穫する方法。
タイ政府は2019年2月以降、深刻化する焼き畑による大気汚染を防止するため、製糖業者に対し焼き畑で収穫されたサトウキビ(以下「焼きキビ」という。)の取引量を制限するなどの規制を行っている。
OCSBが公表した2019/20年度の製糖実績によると、焼きキビは3718万トン(前年度比53.5%減)で、全体に占める割合は49.6%(同11.5ポイント減)とかなり大きく減少した(表)。しかし、同政府が2019年2月の規制導入時に発表した焼きキビの削減目標割合である30%には依然届いていない状況にある。
なお、タイ政府による焼きキビの取引量の制限などの詳細については、「砂糖類・でん粉情報」2019年6月号「タイにおける砂糖産業の動向」(
https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_001986.html )を参照されたい。