既報(注)のとおり、4〜5月にかけて、米国の食肉・食鳥処理場は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による操業停止、一時休業などが行われ、食肉・食鳥処理場の稼働率低下やレストランの休業などによる需給両面での混乱から卸売価格が乱高下するなど混乱の様相を呈した。
しかし5月中旬以降、米国保健福祉省の疾病対策予防センター(CDC)と労働省の労働安全衛生庁(OSHA)が示したガイドラインの順守を命じた国防生産法に基づく大統領令に従い、安全性を担保しつつ相次いで稼働が再開され、6月にはと畜頭数が牛で前年同月比1.9%増、豚で同11.7%増となるなど、と畜頭数、食肉・食鳥生産量が回復軌道に乗った。全米各地で経済活動が緩やかに再開され、需要面での混乱も峠を越すこととなった結果、市場の混乱は沈静したところである。
このような中、CDCは6月6日、全米各州の保健当局に対し、5月31日までにCOVID-19の影響を受けた全ての食肉・食鳥処理場の労働者の調査データを報告するよう求めた。そしてこの結果について、CDCは7月7日、「食肉・食鳥処理場の労働者におけるCOVID-19の状況:2020年4〜5月」という報告書を公開した。
同報告書では、4〜5月の間における、食肉・食鳥処理に従事する労働者のCOVID-19の感染状況が記載されており、米国の基幹産業の一つである食肉・食鳥産業でCOVID-19が発生したことは、多数の者に急激に影響を与えた可能性があると報告されている。
【報告書の内容】
●全米50州のうち、28州から回答があり、うち食肉・食鳥処理場で少なくとも1件のCOVID-19の発生が報告された23州において、239施設で16,233件の感染が確認され、86件(感染者の0.5%)が死亡した。
●労働者の総数が報告された14州では、労働者の感染率は9.1%であった。施設当たりでの労働者の感染率は3.1〜24.5%の範囲であった。
●人種/民族が報告されている9,919件のうち、87%は白人以外で発生した。
労働者全体の割合は白人39%、ヒスパニック(スペイン語を母語とするラテンアメリカ系)30%、黒人25%、アジア系6%であるのに対し、感染者の割合は、ヒスパニック56%、黒人19%、白人13%、アジア系12%と偏りが見られ、食肉・食鳥処理場ではヒスパニックとアジア系の労働者の感染率が高いという結果となった。
●感染が報告された239施設のうち、14州の111施設から感染拡大防止・予防対策が報告され、
・89施設(80%)で、処理場入場時に労働者の検温又は症状でのスクリーニング(検査により、
疾患の罹患を疑われる、あるいは発症が予測される対象者をその集団の中から選別すること)
を実施
・86施設(77%)で、感染源対策(マスク、フェイスシールド等により普遍的な顔面被覆)を実施
・72施設(65%)で、手指衛生設備の追加を実施
・70施設(63%)で、地域社会で感染があった地域の労働者に対し、教育を実施
・69施設(62%)で、労働者間にアクリル板などの物理的障壁を設置
・24施設(22%)で、衛生対策実施に係る一時的な処理場閉鎖を実施
●同レポートの結果については、50州のうち28州からしか回答が寄せられなかったこと、施設によりCOVID-19の特定時期のずれや、利用できる検査手段の違いがあったこと、労働者のCOVID-19への暴露は職場同様、地域社会内でも起きている可能性があること等、データの利用にあたっては、調査結果に影響を与える制限的要素に注意が必要である。
●公衆衛生対策の実施と感染予防措置は、職業上のリスク回避と脆弱な人々の間の健康格差(医療保険格差)の解消のいずれのためにも重要な事項であり、重要産業に従事する労働者保護に役立つものである。食肉・食鳥処理場のような労働者が密集しがちな職場においては、COVID-19感染を低減させる予防措置等が実施されている。こうした施設における COVID-19に関連する同調査から得られた教訓は、これらの重要な産業で働く労働者の COVID-19 感染の予防とリスクの低減に役立つだけでなく、他の食品生産および農業の現場に対して有益な情報を提供することができる。