ラボバンク、世界の乳業メーカーランキングトップ20(2019年)を公表
オランダの農協系金融機関ラボバンクは8月31日、世界の乳業メーカーの2019年売上高(注)ランキング上位20社を発表した。
注:売上高は、牛乳・乳製品の販売に係るもののみを対象とし、2019年の財務状況および2020年1月1日〜6月30日までに完了した企業合併・買収(M&A)をベースにしたものである。
上位20社の総売上高(米ドル換算)は、為替レートの変動や製品価格の上昇がわずかであったことの他、主要輸出国で生乳生産の伸びがこれまでの傾向を下回ったことや有機(オーガニック)市場の成長が限定的であったことなどにより、前年比1.3%増とわずかな増加にとどまった。企業合併・買収(M&A)は計115件行われ、前年の112件をわずかに上回った。そのうち64件が欧州で行われている。上位20社のうち10社の売上高が前年割れとなる中、乳業各社の戦略的なM&Aが進展している。
上位2社は昨年と同じであったが、ランキング第1位のネスレは、非中核事業である米国のアイスクリーム事業(年間売上高18 億米ドル(1926億円:1米ドル=107円)規模)などをラクタリス他に売却した。一方、第2位のラクタリスは、2013年以降、41件のM&Aを実施し、最近では中東、アフリカ、北南米でのグローバルな事業展開を行なっている。これにより、上位2社間の差は大幅に縮まり、2018年には35億米ドル(3745億円)あったその差が2019年には11億米ドル(1177億円)となった。
次いで、米国最大の酪農業協同組合であるデイリーファーマーズオブアメリカは、前年第11位であったディーンフーズ(米国:2019年に破産法適用を申請)(参考1)を2020年初頭に買収し、前年の第6位から一気にランキングを上昇させ、第3位となった。買収により組合員の生乳供給先を確保し、売上高は前年比47.5%増となっている。さらに同社は、2020年後半、セレクトミルク(米国)とグランビア(アイルランド)との合弁で、米国ミシガン州に大規模なチーズ工場(年間製造能力:13万5000トン)を操業させる予定である。
ラボバンクはその他、今回のランキングの中でアジア勢の大きな動きに注目している。まず、中国だが、中国最大の伊利集団は、ニュージーランドの酪農業協同組合であるウエストランドを買収するなどして売上高を前年から20%近く増加させ、前年の第8位から3つ順位を上げ、トップ5入りした。続いて、中国第2位の蒙牛乳業は、豪州のベラミーズを買収し、コカ・コーラと冷蔵牛乳を販売するための合弁会社を中国で立ち上げるなどにより、売上高を同15%以上増加させ、前年の第10位から第8位にランクアップした。前年トップ20に入った乳業メーカーで売上高を前年から10%以上増加させたのは、この中国の2社と前述のデイリーファーマーズオブアメリカだけである。中国国内市場の競争は激化しており、中国乳業各社にとってM&Aを含めた国外市場への展開は事業拡大に必要な動きとなっている。
そして、今回、圏外から一気にランキング第16位に食い込んだのは、売上高を前年比17%増とした世界最大の生乳生産国であるインドのグジャラート州酪農業協同組合連合会である。上位20社に新たな乳業メーカーがランク入りしたのは2015年のアグロプール以来となる。同連合会は、「アムール(Amul)」という販売ブランドで知られており、近年、集乳量増加や加工能力拡大、また、新規市場参入や新製品開発などを積極的に進めている。なお、インドの酪農については、2017年の報告ではあるものの、現地取材などを行ない、同国の概要などをまとめた下記報告書(参考2)を参照されたい。
ラボバンクは最後に、来年の展望として、欧州およびニュージーランドといった主要輸出国では、環境規制の強化への対応を一因とする生産コストの上昇などにより、生乳増産は限定的であるとした。また、中国の経済成長の鈍化と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)以降の世界的な景気後退により、消費者は消費量を減らさずともより安価な商品を求めているとした。
このためラボバンクは、乳業各社が得意とする市場において、健康や家庭での消費をより重視するといった消費者の購買行動の変化を捉えて利益を上げることができない限り、利益率の低下に陥るリスクがあるとした。同時に、世界的な国際貿易の緊張の高まりや、各国の食料安全保障を重視する動きなどを背景に、乳業各社がグローバル戦略を再考する可能性も指摘した。
【調査情報部 令和2年9月11日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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