欧州委員会、食肉の短期的需給見通しを公表(EU)
欧州委員会は2020年10月5日、9月中旬までの市場情報に基づき、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって急速に変化する状況や影響などを可能な限り反映した農畜産物の短期的需給見通し(注1)を公表した。このうちの食肉の需給見通しの概要について紹介する。
なお、EU・英国間においては、将来の貿易環境がどのように変化するか不確定であるものの(参考1)、農畜産物の関税や非関税障壁が発生しない現在と同じ条件であることを仮定し、欧州連合(EU)離脱の移行期間にある英国(注2)を含まないEU加盟27カ国を対象としている。
(注1)欧州委員会は、農畜産物の短期的需給見通しを年3回(晩冬、初夏、初秋)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。
(注2)英国は現在、EU離脱(BREXIT)したものの、EU法の適用下の「移行期間」にある。同期間は2020年12月31日に終了予定。
<牛肉>
2020年の牛肉生産量は、今年7月の短期的需給見通しの前年比1.7%減を上方修正し、下半期の生産が安定的に推移すると仮定して同1.4%の減少と見込んでいる。減産の主な要因は、COVID-19による食肉処理場の操業停止などの影響の他、春期の乾燥による飼料供給不足のため、低体重での早期出荷が増えたことなどが挙げられる。上半期は、COVID-19の影響により4、5月のと畜頭数が停滞又は減少したことや、外食産業の営業停止などCOVID-19の影響による需要減を受けて多くの加盟国で減産となり、前年同期比2.4%減となった。しかし、外食産業や観光業の営業再開により需要は回復傾向にある。これに伴い、5月中旬に底を打った牛枝肉卸売価格は、前年水準まで回復している。
2020年の牛肉輸出量は、前年比1.0%の増加を見込んでいる。上半期は、英国のEU離脱(BREXIT)への懸念から英国向けは前年同期比9%減となる一方、アイルランド、デンマーク、イタリア、フランス、ドイツなど英国以外への輸出量は同12%増となった。一方、輸入量は、外食産業の営業停止などから、上半期実績では同22%減となったが、外食産業の営業再開により需要に回復傾向が見られることから、通年では前年比10%減にとどまるものと見込んでいる。
また、2020年の牛肉消費量については、前回の見通しから変わらず、前年比2.1%の減少(一人当たり10.4キログラム)を見込んでいる。
<豚肉>
2020年の豚肉生産量は、今年7月の短期的需給見通しの前年比0.5%増を下方修正し、同0.5%の減少を見込んでいる。上半期には、スペインとデンマークの増加分を、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ポーランドの減少分が上回り、EU全体での上半期の生産量は同0.9%減となった。第3四半期(7〜9月)には、好調な豚価、消費者需要の回復、最近の投資の効果などにより各加盟国での増産が進むと期待されていた。しかし、9月中旬にドイツ東部国境でイノシシからASF(アフリカ豚熱)が確認されたことによる同国からの輸入禁止の動きがこうしたことから、夏の初めから安定していた豚価にも下げ圧力が出始めている(参考2)。
2020年の豚肉輸出量は、今年7月の短期的需給見通しの前年比10.0%増を大幅に下方修正し、同2.0%の増加と見込んでいる。上半期の輸出量は、中国向けが倍増、その他ベトナム向けが増えたことなどから、前年同期比で15%を超える増加となった。しかし、EU最大の豚肉生産国であるドイツでASFが確認され、大幅に下方修正された。また、2021年には、中国での国内生産の回復や特に輸入食肉に対する食肉消費の多様化により前年比10.0%の減少が見込まれている。今後のEUの豚肉輸出にとっての注目点は、ドイツのASFの封じ込めの成否と、貿易相手国が地域主義(注3)の適用によって、ドイツからの豚肉輸出を部分的に認めるかどうかである。なお、ドイツの中国およびアジア向け輸出の減少分は、デンマーク、スペイン、オランダが部分的に補完する可能性があるとみられる
また、2020年の豚肉消費量については、前年比1.1%の減少(一人当たり32.8キログラム)と見込んでいる。
(注3)地域主義とは、疾病発生国であっても、清浄性(当該疾病の感染の可能性がないこと)が確認できる地域からの輸入であれば認めるもの。
<家きん肉>
2020年の家きん肉生産量は、今年7月の短期的需給見通しの前年比2.0%減を上方修正し、同1.0%の増加を見込んでいる。主要生産国であるイタリア、ポーランド、スペイン、ドイツで生産が拡大し、上半期で前年同期比1.5%増加した。ポーランドにおける投資の進展や、COVID-19による都市封鎖(ロックダウン)における他の食肉から家庭内消費の多い鶏肉への需要のシフトなどが要因となっている。外食産業の営業再開や小売での旺盛な需要に支えられ、価格は回復基調にある。一方、家きん肉の中でも、販売先のほとんどが外食向けである鶏肉以外(鴨、ホロホロ鳥、ハト、うずら)は、COVID-19による外食産業の営業停止の影響を大きく受け、生産量の減少が2020年末まで続くとみられている。
2020年の家きん肉輸出量は、年初に鳥インフルエンザが発生したポーランドからの輸入が徐々に再開されると見られるものの、前年比6.0%減となり、2021年には緩やかな増加に転じると見込んでいる。2020年上半期は、主要輸出先である英国向けが前年同期比12%減となった他、同20%増となったフィリピンを除くその他の国向けが同5%減少し、全体で同8.5%減となった。
2020年の家きん肉輸入量は、輸入鶏肉の主な仕向け先である外食産業の需要低迷の影響により、同12.0%減になると見込んでいる。上半期は前年同期比15%の減少であったものの、2021年には前年比6.0%増と回復が見込まれている。
また、2020年の家きん肉消費量については、前年比1.5%増加(一人当たり23.7キログラム)と見込んでいる。
その他、本見通しでは、羊・山羊の2020年生産量について、COVID-19による外食需要の低下の影響などから、今年7月の短期的需給見通しの前年比1.5%減を下方修正し、前年比3.0%減少を見込んでいる。
欧州委員会は報告の中で、COVID-19の農業・食品部門へ与えた影響を考慮することが今回の課題であったとした。また、COVID-19により、電子商取引による食品販売の増加や、地産地消の進展などの食品システムへの変化があったとする一方、COVID-19の第二波の程度や経済的影響を緩和するために各加盟国が措置する対策の成否など不確定要素が多くあることから、2021年の景気回復の展望や農業市場への影響等を見通すことには注意が必要であるとしている。
【調査情報部 令和2年10月22日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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