2020年11月28日、カナダのマリー・クロード・ビボー農業・農産食品大臣は、EU・カナダ包括的経済貿易協定(CETA:The Comprehensive Economic and Trade Agreement between EU and Canada)と環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP:Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)によって、カナダが乳製品および家きん製品(鶏肉、七面鳥肉、鶏卵、種卵)の市場アクセスを譲許したことに対する補償として、カナダで供給管理制度(注)の対象品目となっている生乳及び家きん肉や鶏卵の生産者に対して支援を行うことを公表した。
(注)カナダ政府は、生乳及び家きん肉や鶏卵について、適正価格での安定供給と生産者の適切な所得確保を図るために供給管理政策を実施しており、生乳生産割当による計画生産、取引価格の設定による価格支持、輸入品に対する関税割当などが行われている。
2017年9月21日に発効したCETAに関する国内支援として、同年からカナダ政府は酪農産業に対して累計3億5000万カナダドル(287億円、1カナダドル=82円)を投入し、ロボット搾乳機の導入や自動給餌器などの設備投資に関する支援事業を行った。さらに2020年4月からの2年間には、新たに2億5000万カナダドル(205億円)規模の設備投資に関する支援事業を行っている。
その後、2018年12月30日にCPTPPが発効したことを受けて、2019年8月には、ビボー大臣がカナダの酪農家を8年間にわたり補償するために、17億5000万カナダドル(1435億円)の直接支払いを行うことを発表し、2019年12月と2020年1月の間に、1万戸以上の酪農家に対し、生乳生産割当に基づいて3億4500万カナダドル(282億9000万円)の直接支払いを行った。今回の発表により、2019年8月に公表した予定を前倒しして、今後3年間で残りの14億500万カナダドル(1152億1000万円)を酪農家に対して直接支払いすることが明らかにされた。一例として、80頭の成雌牛を飼育している酪農家は、毎年約3万8000カナダドル(311万6000円)の直接支払いを補償として受けとるとみられている。
さらに、カナダ政府は今回の発表で、4800戸の家きん類(鶏肉、七面鳥肉、鶏卵、種卵)生産者のために10年間で6億9100万カナダドル(566億6200万円)の支援を行うことを明らかにした。
ビボー大臣は、今回の発表でカナダ政府は家族経営農家と農村地域を支える供給管理制度を万全の態勢で支援しており、供給管理制度に携わる次世代の人々に対しても強力な支援を行うことを示した、と述べている。
今回の発表に対して、関連する生産者団体による主な声明は以下の通り。
カナダ酪農家協会(DFC:Dairy Farmers of Canada)は、同日付で発表されたニュースリリースにおいて、輸入乳製品との競争が激化する中、今回の措置により、補償の前倒し及び支払いのスケジュールが明確になったことにより、生産者は確かな見通しをもって新技術を導入し、生産性を向上するための投資を行う事ができるようになったとして、今回の措置を歓迎している。また、同協会はこれにより、今後USMCA(注:カナダではCUSMAと表記)の影響に対する緩和策について、協議を進めたいと表明している。
カナダ鶏卵生産者協会(EFC:Egg Farmers of Canada)、カナダ鶏肉生産者協会(CFC:Chicken Farmers of Canada)、カナダ七面鳥生産者連盟(TFC:Turkey Farmers of Canada)、カナダ種卵生産者連盟(CHEP:Canadian Hatching Egg Producers)も同日付で共通のニュースリリースにより発表を行い、2018年12月に施行されたCPTPPによって、国産が国内市場のシェアを失い、多額の収入減少に直面しているものの、今回の措置により生産者が今後の計画を立てることを容易になったと述べている。また、CPTPPだけでなく、USMCAの影響により大きな損害を被っているとし、その対策について、政府と協議していくことを期待しているとしている。