欧州委員会は12月17日、2021年における欧州連合(EU)域内外での農産品プロモーションプログラムとして1億8290万ユーロ(234億1120万円:1ユーロ=128円)の予算を措置したと発表した(表)。
2021年のプログラムは、欧州委員会が2019年12月に発表し、最優先課題として進める持続可能な社会への移行を目指す欧州グリーン・ディール(参考)に貢献するよう、有機、果実・野菜、持続可能な農業による農産品を優先事項とした。また、農産品の国際市場が拡大していることを好機として、EU産品の国際競争力を向上させ、品質や持続可能性の面でEU農業に高い基準が採用されていることへの認識を高めることも目的としている。なお、予算全体は前年(2億90万ユーロ(257億1520万円))からやや減少した。
欧州委員会のヤヌシュ・ボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員は、欧州の農業は国際的にも品質や安全性に高い評価があるものの「岐路に立たされている」とし、「欧州農業は今、持続可能性への注力を高める必要がある」とした。また、持続可能な農業は、持続可能な方法で生産された食品への要求を高めている消費者にメリットをもたらすだけでなく、生産品に付加価値を与えることで生産者にもメリットをもたらすものであると、このプログラムの必要性を説明した。
今回の予算の約半分(8610万ユーロ(110億2080万円)。表の※印)は、欧州グリーン・ディールの農業・食品部門の戦略であるFarm to Fork(農場から食卓まで:F2F)戦略(参考)に沿ったものに充てられている。これには、有機をはじめとした持続可能な農業や気候変動・環境に対する農業・食品部門の役割をEUや世界の消費者に情報提供することなども含まれる。また、域内向けとして、F2F戦略で目標とするバランスのとれた健康的な食生活への移行のため、新鮮な果実や野菜の消費拡大を目的としたプロモーションも含まれている。
その他、域外向けには、品質や特色ある産品のプロモーションの他、欧州委員会が高い成長可能性の見込める市場とする日本、韓国、カナダ、メキシコなどに焦点を当てたプロモーションを対象とし、EU農産品の競争力を高め、これらの市場におけるシェア拡大を目指すとしている。
なお、具体的な農産品プロモーションプログラムに対する提案の募集は、2021年初頭に公告される予定である。提案は、貿易機関、生産者団体、農業団体などの広範囲の組織が応募可能となっている。
一方、EU最大である農業者団体欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(COPA-COGECA)(参考)は、欧州農産品貿易連絡委員会(CELCAA)(参考)など農業・食品等関係9団体と連名で、同予算措置について反発した。
COPA-COGECAら業界10団体は、持続可能な農業の推進には消費者の需要などから一定の理解を示すも、今回の予算措置が、現在の有機市場シェアが全体の8%である中にあって、予算の約3割程度を有機という単一的な農法に焦点をおいていることは、経済的にも環境的にも非効率であるとした。市場の実態に合っておらず、他の持続可能な生産方法のさらなる貢献を妨げる可能性があり、持続可能な農業を推進するという政策全体への効果を低下させるとも指摘した。また、EU農業予算全体が前年から4%削減される中にあって、同プログラム予算がそれを上回る同9%程度削減されたことに対しても、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が引き続き、かつ、英国のEU離脱(BREXIT)の移行期間終了が2020年12月31日に迫り、業界が多くの支援を必要とする中、特に受け入れがたいとした。
<参考:欧州グリーン・ディールおよびF2F戦略について>
・EUの「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略について〜2030年に向けて、持続可能性(サステナビリティ)を最優先課題とするEU農業・食品部門〜(「alicセミナー」2020年12月14日)
・持続可能性(サステナビリティ)を最優先課題とするEU農畜産業の展望〜2019年EU農業アウトルック会議から〜(「畜産の情報」2020年3月号)
・欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(COPA-COGECA)とは、EU加盟国の2300万人以上の農業生産者によって構成されるCopa(欧州農業組織委員会)および2万2000の農業共同組合により構成されるCogeca(欧州農業協同組合委員会)により組織されたEU最大の農業生産者団体。CopaおよびCogecaは、独立した組織であるものの、両者は共同で事務局を設置し、主にロビー活動を行っている。
・欧州農産品貿易連絡委員会(CELCAA)とは、EU加盟国の3万5000社の農産物貿易事業者で構成されるEU団体。穀物、飼料、砂糖、ワイン、食肉、乳製品、青果、卵などの農産物を対象としている。