トランス・タスマン・バブルによる酪農業界の労働力確保の取り組み(豪州・NZ)
豪州とニュージーランド(NZ)両国の間では、4月19日からトランス・タスマン・バブル(Trans-Tasman bubble)と呼ばれる取組が開始された。これをめぐって、両国の酪農業界ではさまざまな反応がある。
トランス・タスマン・バブルとは、タスマン海を挟んだ豪州・NZ両国間で、航空機内でのマスクの着用や行動追跡アプリのダウンロードなどを条件に、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の検疫隔離を免除して人の往来を認めるという二国間合意である。ただし、4月23日に西オーストラリア(WA)州パースでCOVID−19の市中感染者2名が確認され、パース都市圏を中心に同月24〜27日までロックダウンが実施されたことから、この間は、NZとWA州間の移動に再び制限が設けられるなど、COVID−19の感染状況に応じて弾力的に運用されている。
豪州の酪農業界団体であるデイリー・オーストラリアによると、豪州酪農業界にとって喫緊の課題は酪農家戸数の維持と労働力の確保であるが、特に昨年来のCOVID−19による国境封鎖により、これまで豪州国内の一次産業等に多く従事していたワーキングホリデーや語学留学の学生などが帰国したことなどから、労働力不足に拍車がかかっているとしている。
COVID−19の影響を完全に捉えているものではないが、2019/20年度(7月〜翌6月)における豪州の酪農関連産業従事者数は、前年度に比べて2700人減少(前年度比5.8%減)している(表1)。
一方、NZの酪農関連産業の従事者数は、農場従事者数が3万409人(前年度比10.6%減)と減少したのに対し、加工・卸部門の従事者数が1万9508人(同62.6%増)と増加したことから、全体で4万9917人(同8.5%増)と増加している。
デイリー・オーストラリアへの聞き取りによると、豪州およびNZの酪農現場では、通常、季節労働者を雇用しているが、コロナ禍において、両国とも人手不足に拍車がかかっているとのことであり、特に豪州においてはその傾向が顕著であることがわかる。そこで、一般的に賃金水準が高い豪州側においては、トランス・タスマン・バブルを活用し、NZの労働者を呼び込もうとする動きが加速している(表3)。
例えば、豪州の人材紹介会社では、このトランス・タスマン・バブルを契機に、NZからの労働力を取り込むべく、無料航空券や紹介先での高額な賃金、福利厚生を提示するなどのキャンペーンを強化している。
このような豪州側の動きに対し、NZの酪農団体であるデイリーNZは強い危機感を抱き、NZの酪農家に向けて可能な限り現在のスタッフを維持・確保するようにとメッセージを送っている。
NZでは従来より、デイリーNZと農業団体の農民連合(Federated Farmers)が共同で、優れた人材管理のための5つの柱からなる酪農現場における職場行動計画(Workplace Action Plan)を策定し、農場のパフォーマンスを向上させる取り組みを行っており、今後、労働者にとっての魅力的な職場環境の提供を通じた労働力の確保をさらに強めていくものと見られる(図1)。
図1 優れた人材管理のための5つの柱
1. バランスのとれた生産的な業務時間
2. 正当な報酬
3. 健康、安全、幸福
4. 効果的なチーム文化
5. やりがいのある仕事
当面のところ、両国以外からの外国人労働者の確保は困難とされるため、両国の酪農業界の間での人材確保に向けた駆け引きが繰り広げられそうである。
【調査情報部 令和3年5月10日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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