豪州連邦政府、来年度予算案で農業関連支出を拡充(豪州)
豪州連邦政府は2021年5月11日、来年度(2021/22年度<7月〜翌6月>)の連邦予算案を公表し、今後4年をかけて様々な農業施策の実行を目指していくことを明らかにした。
これに先立ち、クイーンズランド(QLD)州ロックハンプトンで5月2日から8日に開催された豪州最大の畜産の祭典「BEEF AUSTRALIA 2021」において、スコット・モリソン首相は記者会見の席上、「豪州の家畜部門を含むバイオセキュリティ対策費として、3億7000万豪ドル(321億9000万円:1豪ドル=87円)を来年度新たに計上し、速やかに執行することで、観光産業の420億豪ドル(3兆6540億円)と農畜産物輸出産業の530億豪ドル(4兆6110億円)の生産基盤を保護する」と発表した。
また、同席したデビッド・リトルプラウド農業・干ばつ・緊急事態管理担当相は自身のメディアリリースにおいて「牛肉産業は豪州の主要なビジネスであり、4万5000人以上が同産業に携わる中、最高の品質と信頼性を誇る製品を、国内のみならず世界70カ国以上に輸出することで、豪州経済に150億豪ドル(1兆3050億円)以上の価値をもたらしている」と牛肉産業の重要性を伝えた。
来年度予算案における農業分野の注目点には、「Ag2030」(注)の達成を目指すための農業関係施策が多数盛り込まれていることが挙げられ、豪州経済に多大な貢献のある農業分野の競争力強化や、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの回復に向けた政府の強い想いがうかがえる。今年度の農業産出額は660億豪ドル(5兆7420億円)と見込まれているが、政府はこれらの施策実施を通じ、今後10年間で約1.5倍の拡大を目指している。
(注)2030年までに、豪州の農業産出額を1000億豪ドル(8兆7000億円)とする政府目標。
今後4年間で実行する農業関連予算の総額としては、8億5000万豪ドル(739億5000万円)以上が確保されているが、以下に主要な施策について紹介する。
1.バイオセキュリティ支援対策
(4億1450万豪ドル:360億6150万円)(注)
豪州政府にとって最優先とされる施策の一つであり、これにより、アフリカ豚熱などの侵入に備えた検疫体制を強化し、ICTシステムやデータ分析をより高度化することで、バイオリスクをより的確に捉え、通関時間を短縮することなどが可能になるとしている。
(注)政府の正式発表時点では、事前にモリソン首相が発表した予算より一部追加の支援項目があり、バイオセキュリティ支援対策全体額が変更されている。
2.貿易支援対策
(9670万豪ドル:84億1290万円)
牛肉をはじめとした豪州農畜産物の輸出市場における利益の保護と増進を目指し、国際交渉の場でのリーダーシップを発揮するための専門家の育成や、農業生産性の向上と競争力のあるサプライチェーン構築のための農薬および動物用医薬品の利用拡大のほか、「アグリビジネス拡大イニシアティブ(ABEI:Agri-Business Expansion Initiative)」(注)に基づく輸出業者支援サービスや市場情報の利用拡大が盛り込まれている。
(注)2020年12月、豪州アグリビジネスの輸出市場拡大のために豪州政府が発表した、厳しい市場環境や貿易の混乱の影響を受けている豪州のアグリビジネス企業などの国際市場の拡大と多角化を支援する取り組み。
3.人的資本への支援対策
(6810万豪ドル:59億2470万円)
農業分野への多様なキャリアを有した人材の参入を図るべく、新たな雇用プログラム(AgCAREERSTART(注1))を創設し、豪州の若者に対するギャップイヤー(高校卒業から大学入学あるいは大学卒業からから大学院入学までの期間)における農業関連の様々な取組の試験的実施や、AgUP補助金(注2)によるスキルやキャリアアップの機会の拡大、農畜産業関連企業の展示会での発表などを通じた労働力管理と計画を改善する取り組みへの支援を行う。
また、農業金融カウンセリングサービスへの資金提供の増加や、事業所得の調整上発生した債務の免除など、農村地域への支援策も盛り込まれている。
(注1)農業分野への若者の参入促進を目的に、試験的に創設される雇用プログラム。
(注2)農業従事者のキャリアアップの道筋をつけ、スキルアップのための訓練や指導を行う業界の取り組みに対し、資金を提供するもの。
4.サプライチェーン支援対策
(540万豪ドル:4億6980万円)
農畜産物のサプライチェーン関係者が公正に扱われ、適正な対価を受け取ることができる仕組みの構築を支援するため、生鮮食料品のサプライチェーンと協力して、市場の透明性に関する課題を特定し、解決するためのツールの開発に対する共同出資に関する予算などが盛り込まれている。
5.農業イノベーションへの支援対策
(3480万豪ドル:30億2760万円)
輸出、気候変動への対応、バイオセキュリティおよびデジタル農業という4つのイノベーションの視点から、豪州農業の生産性と競争力を高めるため、関係機関との共同研究や、その結果の商業化および普及を促進するための投資に関する予算などが盛り込まれている。
現地では、農業関連への巨額な予算配分に対し「取りこぼした分野を見つける方が難しい」と報道されるなど好評を得ており、農業を国の重要な柱として位置付ける豪州において、モリソン政権の支持率回復に向けた熱意が感じ取れる。また、リトルプラウド農業担当相は、予算案の実行により、2021/22年度の農業産出額は、控えめに見て710億豪ドル(6兆1770億円)を見込むことができるとしている。
さらに、モリソン首相は従前より、京都議定書の気候変動に関する義務を早急に果たすと述べており、今般の気候変動に対応した取り組み(注)も国際社会に向けて豪州が努力していることのアピールになるものと考えられる。
(注)農業土壌の運用管理支援対策(2億4690万豪ドル:214億8030万円)のうち、農家がどのように生物多様性を保護して温室効果ガスを排出しているかを評価できる仕組みを構築する施策。
今後、豪州連邦予算案が承認され、さまざまな対策が円滑に執行されるのか、また、国際社会での豪州農畜産業のプレゼンスがどのように変化していくのか、注目されるところである。
【調査情報部 令和3年5月21日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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