アルゼンチン政府、30日間の牛肉輸出停止措置を公表
国内牛肉価格の抑制を目的に導入
アルゼンチン工業生産・開発省は5月17日、最近数カ月間にわたり上昇を続ける国内牛肉価格を抑制するための対策として、牛肉(注)の輸出を30日間停止する措置を公表した。この決定は同日夜、アルベルト・フェルナンデス大統領がアルゼンチン牛肉輸出協会を中心とする業界団体の代表者との会議で伝えたもので、今後国内の牛肉需給状況が改善された場合、この措置を前倒しで解除するとしている。今回の措置は、輸出増によりひっ迫する国内の牛肉需給を是正することにより価格を抑制し、国内消費の回復を図るためとみられる。なお、今回の牛肉輸出停止措置は、5月20日から実施されている。
(注)今回の措置の対象となる牛肉(HSコード):0201.10.00、0201.20.10、0201.20.20、0201.20.90、0201.30.00、0202.10.00、0202.20.10、0202.20.20、0202.20.90、0202.30.00
中国向け牛肉輸出需要の増加や国内価格上昇などが背景
アルゼンチンは世界有数の牛肉輸出国であり、近年、大幅に輸出量を伸ばしている。2020年の輸出量は前年比9.3%増の60万8754トン(船積み重量ベース)と2017年からの3年間で約3倍に急増している。また、2021年(1〜3月)の輸出量も前年同期比22.7%増と増加傾向を維持している(図1)。これは、中国向けの輸出の増加によるところが大きい。同国向けは、中間富裕層の増加による牛肉需要に加え、アフリカ豚熱の影響で豚飼養頭数の減少から牛肉への代替需要が高まった2019年以降、特にこの増加に拍車がかかっている。このため、2020年の同国向け輸出量は、前年比9.1%増の46万3778トンと牛肉輸出量全体の76.2%を占めている。なお、日本向けについては2018年5月、同国南部パタゴニア地域からの牛肉輸出が解禁された。財務省貿易統計によると、2020年(1〜12月)および2021年(1〜3月)のアルゼンチン産牛肉輸入量は、それぞれ9トンおよび11トンとなっている。
中国向けを中心に牛肉輸出が堅調である一方、アルゼンチンの景気状況は、2018年から3年連続で実質GDP成長率がマイナスを記録し、2020年10〜12月期の失業率は11.0%と高水準で推移している。また、高水準のインフレ状況(2019年のインフレ率:53.8%、20年:36.1%)が続いており、牛肉価格も上昇している。2021年4月の国内の牛肉(モモステーキ)小売価格を見ると、前年同月比62.7%高と大幅に上昇している(図2)。
国内業界団体、今回の措置に反対を表明
アルゼンチン政府は、今回の措置に先立ち、国内の食肉市場における需給の不均衡を是正することなどの対策を講じている。2021年4月には、輸出業者に対し食肉等の輸出管理を強化するため情報登録措置を導入、さらに食肉輸出業者が食肉(牛肉、豚肉、羊肉、ヤギ肉、馬肉、鶏肉)を輸出する際にその詳細情報を記した輸出宣誓供述書の提出を義務付けることとした。
アルゼンチン牛肉輸出協会をはじめとする業界団体は、今回の措置に対し反対する意向を表明している。主要な肉牛生産者を含む業界団体は、5月20〜28日の9日間、すべての肉牛の取引を中止する意向を表明した。
中国などの牛肉需給に影響を及ぼす可能性も
2020年の中国の牛肉輸入量は211万9千トンであり、このうちアルゼンチンは最大の供給国であるブラジルに次ぐ輸入相手先となっている(図3)。アルゼンチン以外の主な輸入相手先の牛の供給状況を見ると、ブラジルでは近年牛と畜頭数が増加した結果、と畜向けの牛の供給が減少している。また、アルゼンチンに次ぐ第3位の輸入相手先である豪州は、牛群の再構築によりと畜向けの牛の供給が記録的な低水準となっている。今回アルゼンチンが一時的な牛肉輸出停止措置を講じた場合、中国をはじめとした輸出相手先での牛肉供給が絞られることとなるため、各国での牛肉需給に影響を及ぼす可能性があるとみられている。
【井田 俊二 令和3年5月28日発】
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農畜産業振興機構 国際調査グループ (担当:井田 俊二)
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