世界最大の食肉企業JBS社へのサイバー攻撃による操業一時停止の影響(その2:豪州)
1.経緯と対応
JBS S.A.の子会社であり豪州最大の食肉加工業者である豪JBS 社(注)は、ランサムウエアによるサイバー攻撃を受け、5月31日から6月3日までの4日間にわたり、一部の食肉加工施設の操業を一時停止せざるを得なくなった(経緯詳細は「その1:米国」に掲載)。再稼働までの間、サイバー攻撃を受ける前にと畜した牛の枝肉については、脱骨作業などを手作業で続けていたとされているが、6月4日には完全に元の生産体制に戻ったとみられる。
(注)JBS S.A.は、2007年にAustralia Meat Holdings(AMH)を、2014年にはAndrews M eat Industriesを、翌2015年にはPrimo Foods(旧Primo Smallgoods)を買収し、豪JBS社として豪州最大の食肉加工業者となっている(2020年5月現在)。豪州国内にはフィードロットをはじめ47の食肉関連施設(うち食肉加工施設は12)を有し、約1万2000人の従業員を雇用している(表、図1)。
2.食肉供給への影響
週ごとの牛のと畜頭数を公表している豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)のNational Livestock Reporting Serviceは、豪州最大の食肉企業の操業一時停止により、一部のサンプルを捕捉できないことでデータの信頼性が欠けるとして、5月最終週のと畜頭数データの公表を行わなかった。その前後に公表された同データ(豪JBS社の食肉処理施設が所在している5州の合計)を見ると、10万7677頭から8万6635頭と、2万1042頭の減少(▲19.5%)となった。これには今般の豪JBS社の操業一時停止による頭数減少分が含まれるものと考えられるが(図2)、牛群再構築を進める豪州肉用牛産業の直近3カ月の各週の増減幅を考慮すると、特段大きく落ち込んでいるという状況にはなく、今般の豪JBSの操業一時停止による食肉供給への影響は、限定的であったと考えられる。
このことについて、豪州連邦政府のデビッド・リトルプラウド農業・干ばつ・緊急事態管理担当相(農業相)は、「豪JBS社は、豪州における食肉生産の約26%を占めているが、長期にわたる操業停止でない限り、輸出に大きな影響が出るとは考えていない」という声明を出している。
また、豪JBS社は加盟していないものの、豪州の食肉団体である豪州食肉産業協議会(Austrarian Meat Industry Council:AMIC)は6月3日、豪州食肉の国内供給および輸出には大きな影響はないとの声明を発表している。さらにAMICのCEOであるパトリック・ハッチンソン氏は、声明文の中で、「豪州の食肉業界は非常に柔軟なサプライチェーンを有しており、この種の問題に協力して対処することに長けている。現段階で、国内および輸出のサプライチェーンへの介入が実施され、食肉供給は通常通り行われている。赤身肉と豚肉製品のサプライチェーンの強靭性は、市場アクセスの問題や新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の影響などの分野で、これまでも実証されてきたものである」と述べている。
リトルプラウド農業相は、豪州企業のネットワーク保護を念頭に、この新たな脅威に対応していく必要があるとしている。
【調査情報部 令和3年6月10日発】
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