米国農務省、生産者や消費者の利益確保に向けた法律の強化に着手(米国)
米国農務省(USDA)は6月11日、パッカー・ストックヤード法を強化するため、3本の規則案の策定を始めると公表した。同法律は、市場競争を阻害する不公平な家畜取引や価格形成などを禁止し、肉牛・養豚・養鶏等の生産者と消費者の利益保護を目的として1921年に制定されたものである。
今後数カ月の間に、(1)不公正で欺瞞的な行為、不当な優遇、不当な偏見に対する法の執行を強化するため、これらの行為をより明確にする規則の提案 (2)新たな「家きん生産者トーナメントシステム(注1)」の規則を提案し、現在実施に至っていない提案の撤回 (3)同法律に基づき訴訟を起こす際、訴訟当事者が競争に害を及ぼすことを証明する必要がないことを明確にするための規則の再提案をする予定である。
USDAは今回の発表以前に、バイデン政権が掲げる「Build Back Better(より良い再建を)」戦略の下、食料サプライチェーンの強化を支援するため40億米ドル(4440億円:1米ドル=111円)を投じると公表している。その際、家畜市場や食肉加工部門での取引が、生産者や小規模加工業者に対する不公平な扱いに繋がっている可能性があるとして、透明性と競争力を高めることを目指すとしていた。USDAのヴィルサック長官は、「新型コロナウイルスの流行に端を発する最近の出来事は、寡占化がいかに生産者を苦しめるかということを明らかにし、同時に消費者を価格の高騰や生産量の不確実性にさらしている」との懸念を表した。また「本日開始するプロセスは、生産者を代表して、家畜市場の公正性と回復力を強化することを目的としている」とし、サプライチェーンの回復力を強化するためには、本法律の強化が決定的に重要としている。
今回の発表に対して、生産者団体が歓迎の意を表す一方で、北米食肉協会(注2)は、「家畜市場に対する不必要で負担の大きい政府の介入に対しては、これまで同様に反対し続ける」とのコメントを発表している。USDAによりこれまでも同様の提案がなされても、畜産業者や議会から反対され、現在に至っている経緯がある。現地では、今回のUSDAの公表は結論ではなく、長いプロセスの始まりを意味するものとの報道もあり、今後の動向が注目されている。
(注1) 家きん生産者と鶏肉処理業者との契約において、効率的な出荷に応じて支払いを加算する制度
(注2) 米国の食肉処理、加工、販売業者が加盟する団体で、会員の啓蒙や研究活動の他、ロビー活動を行っている
【上村 照子 令和3年6月24日発】
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