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次期共通農業政策(CAP)改革案について暫定合意(EU)

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 欧州委員会は6月25日、欧州議会、欧州理事会との間で、2023年〜2027年までの5年間を対象とする次期共通農業政策(CAP)改革案について、暫定合意に至ったことを発表した。
 今後は、欧州議会と加盟国政府による承認を得たうえで、EUレベルで策定されたルールに基づき、それぞれの加盟国が5年間にわたり実施する政策の基礎となる戦略的な計画を策定することになる。この計画を加盟国がそれぞれ策定することで、各国の実情をより反映させることができるようになる。
 ティメルマンス上級副委員長は、「委員会は何回もの交渉を重ねて、グリーンディール(注1)を支援する新しいCAPの制定のために努力してきた。この暫定合意は欧州の農業の本質的な変化の始まりとなる。この次期CAPによって今後数年間、湿地や泥炭地の保護、生物多様性を維持するためのより多くの農地の保全、有機農業の促進が行われるとともに、カーボン・ファーミング(注2)によって生産者に新しい収入源を提供し、不公平な所得配分の方法を是正することができるだろう」と述べた。
 また、欧州委員会のボイチェホフスキ農業・農村開発担当委員は、「次期CAPは環境等の面で高い水準を実現し、特に中小規模家族経営や若い生産者により厚く支援が行われるようになる」と暫定合意を歓迎した。併せて、「今後は加盟国において、次期CAPが求める目的に適合し、生産者がより持続的な食料システムへ移行することを支援できるよう、野心的な戦略を策定することを望む」との期待を述べた。

【暫定合意の内容の概要】
(公平性の向上のため)
・CAPによる補助金等受給要件に、初めて社会的要件(労働関連法規の順守等)を設定
・直接支払い(Income support)の再配分。1生産者当たりの年間の直接支払額が6万ユーロを超える場合は,超過分に係る支払額を漸減させ,上限額を10万ユーロに設定。加盟国に対し中小規模農家を対象に直接支払い予算額の1割を割り当てることを義務付け、この手法を加盟国の戦略的な計画に明記する
・40歳までの若い生産者にCAPの直接支払い予算額のうち3%を割り当てる

(持続可能性の向上のため)
・グリーンディールや、その枠組みにおけるFarm to Fork戦略や生物多様性戦略の要求をCAPに統合し、加盟国はそれを反映した戦略を策定する
・政策支援要件を強化する。支援を受ける農用地のうち少なくとも3%を生物多様性を維持するための保全対象面積に含むことを要件とする。さらに、環境保全スキームを通じた追加支払いの受給のためには支援を受ける農用地のうち7%を保全対象面積に含むことを要件とする。またすべての湿地や泥炭地を保護対象とする
・各加盟国は、環境保全スキームを設定する。気候変動や環境保全等に親和的な農法(有機農業やIPM(総合的病害虫・雑草管理))を実践する生産者に支払いが行われる。直接支払の予算額のうち25%を環境保全スキームに充てる
・農村振興政策予算のうち、最低でも35%を気候変動や環境保全等の対策の実施に充てる
・2025年までに欧州委員会は現行の手法とは違ったアプローチについて提案を行う

(柔軟性のある政策のため)
・EUレベルでより簡素なルールを策定する
・2024年以降、加盟国から委員会への年間進捗レポート提出を義務付ける
・欧州委員会は2025年及び2027年に暫定的な見直しを行う
・実施状況を評価するための共通指標を導入する

(生産者の競争力強化のため)
・市場志向的な方向性は維持され、生産者は市場原理に基づき農業を行う
・食品のサプライチェーンの中での生産者の立場をより強化するため、競争政策の例外措置の対象として、生産者が協同化することを認める
・緊急時の市場介入的な措置としての予算を確保する。
 
 次期CAPについては、欧州委員会が2018年6月1日に公表した次期 CAP 改革案を基に3年間にわたり調整が行われてきたが合意形成に至らず、実施開始時期が当初予定されていた 2021 年から2023年に延期されていた。
 欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa - Cogeca)は今回の暫定合意について、合意に至ったことを歓迎する緊急の声明を同日付で発表した。一方で、声明の中で、引き続き生産者にとって多くの課題が残っており、特に今回のCAPの暫定合意で求められる生産者への責務が、加盟国の政策でも首尾一貫すべき(加盟国で不必要に追加されない)こと、また、グリーンディール戦略に基づく他の各種政策により求められる責務がCAPで求められる責務を上回り、複雑かつ矛盾する形で要求されることへの懸念を表明している。併せて「悪魔は細部に宿る(devil is in the detail)」との言い回しを用いつつ、今回の暫定合意が各種規則にどのように反映されていくのか注視するとしている。

<注1:欧州グリーンディールおよびF2F戦略について>
EUの「Farm to Fork(農場から食卓まで)」戦略について〜2030年に向けて、持続可能性(サステナビリティ)を最優先課題とするEU農業・食品部門〜(「alicセミナー」2020年12月14日)
持続可能性(サステナビリティ)を最優先課題とするEU農畜産業の展望〜2019年EU農業アウトルック会議から〜(「畜産の情報」2020年3月号)

(注2)欧州地域開発基金HP「What is carbon farming?」
カーボンファーミングとは、炭素を土壌に固定し、大気中への炭素排出量を減らす農業である。具体的には、有機肥料の使用、不耕起栽培、カバークロップの利用や収穫残渣による土壌の被覆、輪作やアグロフォレストリー等の手段が考えられる。炭素排出権取引と組み合わせると、生産者による気象変動対策への努力を、金銭的な報酬で報いることが可能となる。
【調査情報部 令和3年7月6日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527