アルゼンチン、条件付きで牛肉輸出再開を決定
輸出数量は前年実績の50%以内、輸出品目も制限
アルゼンチン工業生産・開発省および農牧水産省は6月22日、前月に開始した牛肉輸出停止措置を終了し条件付きで再開することを決定した。両省は5月、上昇を続ける国内牛肉価格対策として、5月20日から30日間の牛肉輸出停止措置を講じていた。これは、牛肉輸出の増加によりひっ迫した国内需給の是正と国内牛肉価格の抑制による消費の回復を目的としていた。今回公表された内容は次のとおりである。
1 一部の品目は輸出制限を継続
国内で需要の見込まれる枝肉、アサド(バラ)、バシオ(フランク)などの12品目(注1)については、2021年12月31日までの間、引き続き輸出対象から除外すること。
2 輸出量の上限設定
1カ月当たり輸出量の上限を2020年7〜12月の間の月平均輸出量の50%とし、2021年8月31日まで実施(必要に応じて最長で2021年12月31日まで延長可)すること。ただし、EU向けヒルトン枠、高級牛肉無税枠(QUOTA481)(注2)、米国向け(2万トン)、イスラエル向けなどの関税割当はこの対象外とすること。
3 畜産プランの策定
工業生産・開発省および農牧水産省は、今後30日以内に食肉産業の生産性向上を目的とした畜産計画を策定すること。
なお、この畜産プランは、食肉の国内市場への十分な供給と輸出の拡大を図るため国内での食肉生産の増加を目的としている。中期的には、年間生産量を現在の320万トン(枝肉重量ベース)から500万トンに増加することを目標とし、国内消費量を300万トン(年間一人当たり消費量:70kg)、輸出量を200万トン(2020年輸出量の2倍)とする。主な方策は、食肉産業に対し、技術的、財政的支援を措置するもので、資金調達手段、税制の優遇、技術向上のためのトレーニング、技術開発の支援などが行われるとみられる。
4 食肉部門調整委員会の設置
生産・開発省内に他の関係省庁も参加した食肉部門調整委員会を設置し、食肉産業が直面する課題について監視すること。
(注 1)輸出対象外となる12品目:anexo_6359454_1.pdf
(注2)ヒルトン枠は、EUにおける高級牛肉の低関税輸入枠で、放牧肥育であることなど条件とされている。QUOTA481は、同じく高級牛肉の無税枠で、一定期間の穀物給与などが義務付けられている。
今回の輸出規制に伴い牛肉生産量も減少の見込み
今回の政府の決定を受けて食肉団体のアルゼンチン牛肉振興協会(IPCVA)は、2021年7月〜8月の2カ月間アルゼンチンの牛肉輸出量が前年同期の30〜35%減少し、輸出額が1カ月当たり1億米ドル(112億円、1米ドル=112円)減少するとの報告を公表した。この報告では、今回一部の品目が輸出対象から除外(1頭当たり枝肉の約25%に相当)されるため、輸出品目が特定品目に限定される地域向けは影響が大きいとしている。また、このような輸出規制により輸出向けを中心にと畜頭数が減少し、生産量は1カ月当たり2万5000トン(枝肉ベース)程度減少(注3)するものと見込んでいる。
(注3)年間の生産量に換算すると1割弱の減少に相当。
2021年5月牛肉輸出量は、前年同月比13.1%減
アルゼンチンの2021年5月の牛肉輸出量は、輸出停止措置の影響を受けて4万6187トン(前年同月比7.1%減)と前年同月をかなりの程度下回った。特に輸出全体の約8割を占める中国向けは、4万6187トン(同13.1%減)とかなり大きく減少した(表)。
一方で、2021年5月の国内の牛肉(モモステーキ)小売価格を見ると、前年同月比73.7%高の1キログラム当たり725.53ペソ(849円、1ペソ=1.17円)と、輸出が減少しているものの、依然として上昇傾向が続いている(図)。
【井田 俊二 令和3年7月8日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 国際調査グループ (担当:井田 俊二)
Tel:03-3583-9472