豪州の酪農業界団体であるデイリー・オーストラリア(DA)は6月30日、最新の酪農の生産見通しとなる「Situation and Outlook Report」を公表した。これによると、2021/22年度(7月から翌6月)の生乳生産量は88億〜89.7億リットル(906万〜924万トン相当、前年度比0〜2%増)とわずかに増加が見込まれている。
2020/21年度は、前年度の干ばつから一定の降雨により放牧環境が改善され、飼料価格も低水準で推移した。また、中国を中心とした乳製品の輸入需要により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による国際相場への影響を最小限に抑えられたことで生産者支払乳価も高い水準で推移した。この結果、酪農生産者の88%で経営黒字が見込まれ、そのうちの63%では黒字幅が過去5カ年度平均を上回るとされている。
2021/22年度については、引き続き高い乳価水準が予想される一方、記録的な牛肉価格の高騰
(注1)に伴い、一部の酪農生産者は乳用牛を食肉用に転用するなど頭数規模の縮小が行われているほか、COVID−19に伴う入国制限による労働力不足などから生乳生産量の伸び悩みが指摘されている。
(注1) 詳細は、畜産の情報2021年6月号「肉牛取引価格が900豪セントを超え、過去最高を記録」 (
https://www.alic.go.jp/joho-c/joho05_001665.html)を参照されたい。
DAが行った最新の全国酪農生産者調査(NDFS)
(注2)では、調査対象となった酪農生産者の64%が酪農業の将来について肯定的に感じており、2004年調査開始時以降で最低となった2019年調査時から30%上昇したとされている。また、80%の酪農生産者が自身の経営を前向きに捉え、経営の黒字が見込まれている。
こうした状況を背景に、酪農生産者による農場への投資が活発化している。調査対象となった酪農生産者の91%が過去2年間に投資を行ったほか、88%が今後2年間に投資を行う意向を持っているとされ、特に機械化やかんがい設備などが投資対象の上位に挙げられている。これらの投資が加速する一因として、COVID-19に伴う労働力不足を機械化で補うためとされている。
(注2)NDFS(全国酪農生産者調査):DAにより2004年から毎年実施され、豪州の酪農生産者の行動や意識を包括 的に把握することを目的としている。毎回、約1000人の酪農生産者が無作為に選ばれ、2月から3月にかけて電話によるインタビューが行われる。
一方で、酪農生産者における今後の期待と収益性の向上は、乳牛頭数の拡大や生乳生産量の増加とはつながっていないとの見方もある。DAは、NDFSでは現状の経営規模を維持するとの意向を持つ酪農生産者の割合が、規模拡大を目指す者の倍以上となっていることをその要因に挙げており、酪農生産者が成長よりも事業の統合や負債の返済を重要視しているためとしている。また、干ばつなどの気候条件に対する継続的な懸念や、労働力確保への不安もあり、中でも飼養頭数500頭以上の酪農生産者の50%弱と飼養頭数規模を拡大させている酪農生産者の32%が、今後6カ月間の労働力の確保に懸念を抱いているとしている。