欧州委員会、食肉の短期的需給見通しを公表(EU)
欧州委員会は2021年7月5日、農畜産物の短期的需給見通し(注)を公表した。今回、このうちの食肉(牛・豚・鶏)の需給見通しの概要について紹介する。
(注)欧州委員会は、農畜産物の短期的需給見通しを年3回(晩冬、初夏、初秋)、中期的需給見通しを年1回(12月)公表している。
<牛肉>
2021年の牛肉生産量は、EU域内の経済状況が徐々に改善しているものの、同年第1四半期(1〜3月)の生産量が前年同期比3.7%減と当初予測よりも大きく減少したため、前回3月時見通しの前年比1.0%減から若干下方修正され、同1.4%の減少と見込まれている。第1四半期の減少は、英国のEU離脱後の同国とアイルランド間の国境管理が定まらなかったことで、アイルランドが離脱前の2020年末に英国へ駆け込み輸出するためにと畜・生産が急増した反動から1月の生産量が減少し、第1四半期の生産量が同15.4%減となったことが大きい。これに加え、ドイツで新型コロナウイルス感染症(COVID−19)による外食需要の低下などから同4.6%減となったことが影響している。
2021年の牛肉輸出量は、香港、ノルウェー、サウジアラビア、米国など主に高価格帯製品の需要のある市場への輸出増から、前年比1.0%の増加が見込まれている。しかしながら、同年第1四半期の牛肉輸出量は、英国とEU間での貿易管理や物流の課題から英国向けが前年同期比2万3000トン減となったことに加え、アイルランドで5月に非定型BSEが発生し、中国向けの輸出が大幅に減少したことから、前年同期比10%減となった。
一方、2021年の牛肉輸入量は、EU加盟国の多くで外食産業が徐々に再開されることから、前年比8.0%の増加が見込まれている。しかし、同年第1四半期の牛肉輸入量は、外食需要がまだ停滞していることに加え、世界的に牛肉供給が減少していることも相まって、前年同期比13%減となった。
また、2021年の牛肉消費量は、第3四半期以降は外食産業の再開や観光業の回復などが予想されるものの、前年比1.2%の減少(一人当たり10.2キログラム)が見込まれている。
<豚肉>
2021年の豚肉生産量は、前回3月時見通しの前年比0.7%増から上方修正され、同1.7%の増加が見込まれている。要因として、生体重の増加傾向(2016年以降、年平均1キログラム増加)が続いていることや、ドイツでの生産量の減少をスペイン、デンマークなどでの生産増が上回ると見込まれていることが挙げられる。特にデンマークは、ドイツの野生イノシシにおけるアフリカ豚熱の発生の影響から、2020年に同国向け生体豚(主に肥育素豚であるがと場直行豚も含む)の輸出量が減少したことでデンマークに滞留する肥育素豚の頭数が増加した結果、豚肉生産量の増加が予測されている。
また、豚肉価格については、EU域内市場とアジア向けを中心とした好調な需要から、2〜3月と5〜6月に上昇し、6月初めには100キログラム当たり170ユーロ(2万2610円:1ユーロ=133円)を超えている。豚肉価格の上昇は、飼料コストが増加するなかで生産者へのコスト圧力を軽減すると予測されている。
2021年の豚肉輸出量は、主要輸出先国である中国国内の豚価が、COVID−19拡大以前の水準に比べて大きく下落しているにもかかわらず、依然として輸出業者にとって利益を得ることができる市場であるとして、前年比5.0%の増加が見込まれている。
また、2021年の豚肉消費量は、家庭内需要の伸びなどからわずかに増加し、前年比0.8%増(一人当たり32.5キログラム)が見込まれている。
<家きん肉>
2021年の家きん肉生産量は、前回3月時見通しの前年比1.0%増からわずかに下方修正され、同0.9%の減少が見込まれている。同年第1四半期の家きん肉生産量は、EU18カ国での鳥インフルエンザの発生拡大もあり、主要生産国であるポーランドの生産に影響が出たことに加え、鳥インフルエンザの発生に伴う輸入停止措置から輸出見通しが困難となり、EUの家きん肉産業では減産が行われたことで前年同期比4.4%減となった。
また、同年第2四半期の家きん肉価格は、輸入量および生産量が減少しているなか、家庭内消費を中心に需要が増加したことから高水準で推移した。特に6月初めには過去5カ年平均をかなりの程度を上回る100キログラム当たり200ユーロ(2万6600円)を超えた。このような状況にもかかわらず、飼料コストの増加が生産者の経営コストを圧迫している。
2021年の家きん肉輸出量は、鳥インフルエンザの発生が収束しつつあるが、発生に伴う輸入禁止措置は清浄性が確認された地域から徐々に解除されるため、通年では前年比5.0%の減少が見込まれている。また、英国のEU離脱により英国向け輸出は、衛生植物検疫(SPS)措置がまだ適用されていないにもかかわらず前年同期比29%の減少となった。4月からSPSが適用されると、さらなる減少が予想される。
2021年の家きん肉輸入量は、第1四半期に減少したものの、年間を通じて安定的な推移が予測され、前年並みと見込まれている。
また、2021年の家きん肉消費量は、比較的安定的な推移が予測されており、前年比0.1%減と前年並みが見込まれている。
欧州委員会は、COVID−19のワクチン接種の進展により、EU域内では外食産業の再開と渡航制限の緩和が可能となり、夏の観光シーズンとEUの食品消費全体に良い影響を与えると見込んでいる。しかし、ワクチンがデルタ型の拡散を抑制する効力やデルタ型がワクチンを接種した人にどの程度影響を及ぼすかについては、不確実性が残っているとしている。
【小林 智也 令和3年7月20日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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