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豪州におけるツマジロクサヨトウの防除に向けた取組 (豪州)

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最終更新日:2021年8月31日

 ツマジロクサヨトウ(Fall armyworm moth(学名:Spodoptera frugiperda)。以下「FAW」という。)は、元来アメリカ大陸の熱帯地方に生息する蛾の一種で、日本を含む世界的な農業害虫となっている。豪州では2020年1月に同国北部のトレス海峡の2つの島で初めて確認された後、クイーンズランド州(同年2月)、ノーザンテリトリー(北部準州:同年2月)および西オーストラリア州(同年3月)で発見され、現在では豪州全土に生息域を拡大している。
 2021年8月現在、豪州国内でのFAWによる農作物への被害の詳細は明らかにされておらず、また、深刻な状況にあるとの報道もなされていないが、国際的な報告書や研究などに基づく試算では、非遺伝子組み換えトウモロコシの2019/20年度(7月〜翌6月)の1ヘクタール当たりの豪州年平均収量が6.9トンであったのに対し、被災圃場(ほじょう)では同約1.3トン(約19%)、またソルガムでも同様に年平均収量2.9トンに対し、同約0.3トン(約10%)、それぞれ大幅に減少したとされている。
 このため、本稿では、今後の防除に向けた豪州での取組状況について紹介する。 

 豪州では、緊急植物害虫諮問委員会(CCEPP)(注1)が同年2月24日に会合を開き、FAWの根絶は技術的に不可能であると結論付けている。
(注1)豪州の政府機関であり、害虫侵入への対応の調整や、根絶のための技術的評価などを行う組織。

 FAWの宿主植物は、多種報告されているが、一般的にトウモロコシ、ソルガム、サトウキビ等に対し嗜好性が高いとされ、豪州においても、トウモロコシの被害が最も大きいとされる。

 なおFAWは、1世代で500キロメートル、一晩で最大100キロメートル移動するなどなど、長距離移動が可能である。また、FAWのライフサイクルは、適温の場合で約30日であることから、豪州北部の亜熱帯および熱帯気候地域では、毎年複数の世代を経ることができるとされ、それらの特性が防除をより困難なものとしている(図1)。
図1 FAWによる被害リスクを3段階に区分した予想分布モデル
 この状況に対し、クイーンズランド州政府や関係団体は防除計画資料(FALL ARMYWORM CONTINUITY PLAN)を取りまとめた(2020年11月公表)。本資料ではFAWの防除対策の手順として、まず当該地域の被害リスクエリアを評価し、発見時には実際にFAWの識別や発生数を確認し(図2)、その数が閾値(いきち)に達した場合には、幼虫が活発に活動する早朝や夕暮れ時での殺虫剤の集中散布による駆除が必要であるとしている(図3)。
図2 FAWの発生状況を確認するための捕獲用トラップ (FALL ARMYWORM CONTINUITY PLANより引用)
図2 FAWの発生状況を確認するための捕獲用トラップ (FALL ARMYWORM CONTINUITY PLANより引用)
図3 FAW防除対策のマネジメントフロー
 なお、FAWの防除について同国では、蛾の一種であるアメリカタバコガ(American cotton bollworm(学名:Helicoverpa zea))向けの殺虫剤の散布が一般的に行われている。
 殺虫剤による防除は、同国で広く採用されている方法であるが、FAWの個体群によっては感受性の違いがあることが、豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)などの研究機関で報告されている。また、殺虫剤の散布においては、葉の隙間などに薬剤を行きわたらせることが難しく、個体数が少ない場合での散布は不経済であることなどから、最近ではFAWの天敵となる昆虫を用いた生物的防除が試みられている。
 例えば小さな蜂の仲間であるTrichogramma pretiosumやTelenomus remusは卵からの孵化を阻害し、また、Cotesia marginiventrisという蜂は、FAWの幼虫に寄生して成長を阻害することで知られ、これらを卵の状態で手作業や近時ではドローンなどを用いて圃場に散布する手法が採られている。
 また、昨年には、FAWだけを攻撃するウイルスを含む有機認証の生物農薬「Fawligen」の使用が許可された。本薬剤によると、FAWがFawligenに含まれるウイルスに感染してから4〜8日で幼虫が発症し、最終的には死亡するとされている。
 なお、天敵昆虫などの生産には多くの労働力が必要であり、高価な化学薬品と同等のコストが掛かるとされているが、生産者が殺虫剤を浴びながら散布するよりも、はるかに安全で効果的な対応策であると評価されている。

 これらの防除策の実証などについては、クイーンズランド州農業水産省、ビクトリア州農業省、綿花研究開発公社(Cotton Research and Development Corporation)が主導し、豪州の園芸研究開発機関である「ホートイノベーション」が生産者に提供し、助言などを行っているが、持続可能な農業生産の観点からも、天敵昆虫や生物農薬による防除のさらなる研究や普及が望まれている。
 
【調査情報部 令和3年8月31日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530