国連食料システムサミットが開催、米国農務省の取組と畜産業界の反応(米国)
食料システム(注1)の変革が世界を支える鍵となるものであるとして、国連食料システムサミット(UNFSS:United Nations Food Systems Summit)が2021年9月23日、24日の両日、米国のニューヨークで開催された。本サミットは、国連が掲げる2030年までに持続可能な開発目標(SDGs)、特にその中でも、飢餓や貧困の撲滅、気候変動対策の具体化を達成するために不可欠なものであるとして、グテーレス国連事務総長の招集の下一部オンライン形式で開かれた。
(注1)食料システムとは、食料の生産、加工、輸送および消費に関わる一連の活動のことを指したもの。
国連食料システムサミットの5つのテーマとビジョン
本サミットには以下の5つのテーマが掲げられた。この中で、SDGsの達成のための食料システムの重要性について社会的な議論を劇的に高め、国、地域、企業、市民、食品産業関係者などあらゆる者が食料システムの力を活用してSDGsを支持するための指針となることが求められた。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)からの回復の推進と2030年までの10年間でSDGsの目標を達成するための重要な基盤となるとされている。
(1) 質(栄養)・量(供給)両面にわたる食料安全保障
(2) 持続可能な消費行動への移行
(3) 環境に調和した食料生産・加工・流通の推進
(4) 農業従事者の公平な収入確保
(5) 食料システムの強靭化
国連食料システムサミットの概要
本サミットは、あらゆる人々が何をすべきか考えるためのサミットであり、また、国のみならず様々な利害関係者が取組の公約や責任(コミットメント)を示すことから、「人々のサミット」、「約束のサミット」とも呼ばれている。各国政府は1年半にわたる関係者との議論を経て、強靭かつ包括的で持続可能なフードシステムの未来への道筋を描いた。本サミットの事務局によると、85カ国以上の国の首脳がコミットメントを表明したほか、加盟国、企業、市民団体、農業団体などから合計約300ものコミットメントが寄せられた。グテーレス国連事務総長は行動宣言の中で、各国政府やその他関係者に対し、2030年までにSDGsを達成するためにコミットメントを果たすよう呼びかけた。本サミットで示された各国のコミットメントの一部は以下のとおりである。
アラブ首長国連邦:米国と共同で立ち上げた「気候変動に対応した農業イノベーション」の発表
カンボジア :食料システムにおける若者と女性の雇用機会の創出と高栄養の食生活の実現
サモア :伝統的な知見を活かした環境に調和した農業生産の促進
ニュージーランド:先住民食料システム連合への参加、先住民族の食品分野での役割を確保
バングラデシュ:食料を基本的な権利としたすべての人々への質の高い食料の提供
フィンランド:1940年代以降継続している学校給食の無償提供の維持
ブルキナファソ:食の権利の憲法への規定
ホンジュラス :食料システムにおける地方自治体の役割を強化
米国農務省が発表した取組内容
米国農務省(USDA)は本サミットにおいて、100億米ドル(1兆1300億円:1米ドル=113円(注2))の拠出を公表した。そのうち50億米ドル(5650億円)は国内向けの取組に充てられる。USDAのヴィルサック長官は、「創意工夫をして食料システムを改善し、すべての人に栄養価が高く、手頃な価格で手に入る食料を供給するとともに、天然資源を保全し、気候変動危機に立ち向かわなければならない」と述べた。USDAによると、本サミットでの目標達成に向けた取組は以下のとおりである。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の月末TTS相場。
(1) 気候変動に対応した農業イノベーションミッション(AIM4C:AIM for Climate)
米国とアラブ首長国連邦が共同で立ち上げた目標で、今後5年間(2021年〜2025年)で農業分野における気候変動対策や食料システムの技術開発に対する官民の投資を大幅に増加し、加速させることで、気候変動の危機に対処することを目的としている。2021年4月に行われた米国主催の気候サミットで米国とアラブ首長国連邦が発表して以来、支援国の数が3倍以上に増えている。
(2) 「食料安全保障と資源保全のための持続的生産性向上に関する連合会(SPG連合会)」の設置
持続可能な食料システムへの移行を加速させるべく、社会、経済、環境の各側面からそれぞれへの影響とトレードオフを考慮した生産性向上のための総合的アプローチを推進する連合会を設置した。国、生産者団体、農業関連企業、NGO、市民団体、青年団体、国連機関、学術・研究機関など持続的生産性向上に関わるすべての主体が参加可能である。
(3) 「すべての子どものための栄養・健康・教育の確保に関する連合会」への参加促進の主導
2030年までにすべての子どもが栄養価の高い学校給食の提供を受けられるようにすることを目的とした連合会への参加促進を主導する。
(4) 「食品ロス撲滅に関する連合会」への支援等
本連合会への支援を表明するとともに、国内の食品ロスや廃棄物の削減に向けた取組を再確認する。
(5) 持続可能で強靭で包括的な米国食料システムの構築(国内向けの取組)
USDAは本サミットに先立ち、農業生産者、食品業界団体、環境保護団体、栄養・食品安全保障の有識者、農業・食品システムに係る団体および有識者など200名以上を対象に、計3回の「全国食料システム協議」を開催した。そして、アメリカン・レスキュー・プランとパンデミック支援資金から50億米ドル(5650億円)を措置し、このうち40億米ドル(4520億円)を食料生産の支援、加工・流通・市場の仕組みの改善を通じた食料システムの強化に、残りの10億米ドル(1130億円)は、効率的なシステムとインフラの整備にそれぞれ充てられる。
米国畜産業界の反応
国連食料サミットの開催に対する米国の畜産関係業界からの反応は以下のとおりである。
(1) 全米生乳生産者連盟(NMPF)
米国の酪農は、高品質の牛乳・乳製品を生産する世界有数の生産技術を通じて、食料安全保障と持続可能性を支える重要な産業であり、SPG連合会の設置を支持する。米国の酪農家は、技術開発の促進、研修プログラムを通じた科学的な生産技術の活用、学校用牛乳プログラムの提唱など、同連合会の取組に見合った活動を行っている。限られた資源を効率的に利用して増加をたどる人口に食料を供給するためには、世界の農業、食料生産のあり方について、我々全員が自らの役割を果たす必要がある。11月開催予定の国連気候変動会議などにおいても、より革新的で効率的な生産方法への進歩を示し、今回の目標を達成するためのUSDAの取組に期待する。
(2) アメリカ乳製品輸出協会(USDEC)
SPG連合会を通じた米国政府やその他関係者との協力により、持続可能な世界の食料システムを実現するために取り組んでいきたい。食料システムに関する議論を通じて、ルールに基づく国際貿易、科学に基づく実践的な政策、手頃な価格の高栄養価食品へのアクセスが重要であることを明確にするとともに、我々は柔軟性を欠いた食料システムへのアプローチを避けなければならないことを再確認した。持続可能な食料システムに向け、優先課題について他国や利害関係者と協力していきたい。また、米国の乳業界は、世界で最も持続可能な牛乳を最高品質で提供しているが、持続可能性、生産性、栄養安全性への取組を行っており、畜産部門だけでなく、世界の農業全体における事例研究となっている。我々は米国と世界における持続可能性のあらゆる側面を引き続き支援していきたい。
(3) 全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)
米国の肉用牛業界では持続的生産の知見や飼養技術が受け継がれており、自らが管理する土地や水、大気を守るために努力を続けてきた。遺伝学、放牧管理、ふん尿処理の技術の導入など、数え切れないほどの改良を重ねてきた結果、持続可能性が産業の中核をなしており、食料安全保障や気候変動といった総合的なアプローチが必要な地球規模の課題に対応するための中心的な役割を果たすことができる。NCBAは本年、2025年までに収益性と経済的持続性を定量的に向上させる機会を創出し、2024年までに米国の肉牛生産の気候中立性を実証するなどの持続可能性目標を発表し、環境、経済、社会の持続可能性に対するコミットメントを強化した。また、牛肉サプライチェーンは1961年以降、牛肉1ポンド当たりの温室効果ガスの排出量を40%以上削減しており、気候中立の目標達成に向けて順調に進んでいる。米国の肉用牛生産者は、持続可能な牛肉生産の分野で既に世界的なリーダーと言えるだろう。
(4) 北米食肉協会(NAMI)
NAMIはSPG連合会に参加することを発表する。また、NAMIが本サミットにコミットメントとして提出した「明日の人・動物・気候のための持続可能性フレームワークとプロテインPACT」について、パブリックコメントで寄せられたコメントのうち96%以上から支持された。11月には持続可能性フレームワークに含まれる100の指標の進捗状況を検証するための目標を発表する予定である。なお、プロテインPACTは、健康な人、動物、地域社会、環境のための世界的な持続可能な開発目標に向けて、動物性タンパク質セクター全体の活動を加速するために関係者を結集した初めての共同活動であり、目標設定、データ収集と検証、報告を行うなどの包括的なコミュニケーションを既に始めている。
【調査情報部 令和3年10月4日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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