植物由来食肉様食品、市場拡大するも過当競争の懸念(米国)
近年、食肉需要が高まる中で、持続可能性をうたった植物由来の食肉様食品(PBM:Plant Based Meat)が増加しており、米国内ではスーパーマーケット、レストラン、ファストフード店でこれら製品が多く見受けられ、需要の高まりを背景に市場が拡大している。
このような中、代表的なPBM企業であり、マイクロソフト創設者のビル・ゲイツ氏など著名実業家の投資も多いビヨンド・ミート社の株価が急落し、注目を浴びている。なお、本稿中の為替レートは、1米ドル113円(注)を使用した。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の9月末TTS相場。
ビヨンド・ミート社の株価の推移
ビヨンド・ミート社は2019年5月2日に上場し、同日の終値は新規公開株価予想の1株当たり25米ドル(3250円)を大幅に上回る同65.75米ドル(8548円)となった。その後、同年6月5日には同102.60米ドル(1万3338円)と初めて100米ドルを超え、同年7月26日には最高値となる同234.90米ドル(3万537円)を記録した。2020年3月18日には同54.02米ドル(7023円)と落ち込むものの、21年1月には186.83米ドル(2万4288円)と持ち直していた。しかしながら、同年7月以降、株価は再び低下傾向を示している(図1)。同年10月8日には100.58米ドル(1万3075円)まで下落し、100米ドルを割り込んだ20年4月以来の下落を見せた。
株価低迷の要因
ビヨンド・ミート社の株価低迷について、米国投資調査会社ザックスによると、2021年の業績は昨年発表した業績予想を大きく下回っており、大きな損失を計上すると予測されている。同社はファストフード店を展開するダンキン社、米国売上高第5位の小売店チェーンであるターゲット社、老舗スーパーマーケットチェーンであるセーフウェイ社など多くの企業と取引を行っており、PBM商品はそれらの店舗で販売されている。その売上高は2020年に前年比37%増の4億700万米ドル(529億1000万円)に達したが、依然として赤字を抜け出していないとしている。さらに、21年の売上高は同33%増、22年には同48%増と予想されるものの、それでも赤字は解消されないと予測している。また、別の調査会社は低迷の要因として、競合他社の参入とCOO(最高執行責任者)の退任を挙げた。21年9月3日に当時のCOOであったシャー氏の退任を発表したことで株価は急落したとしている。テスラ社とアマゾン社などでも経営幹部を務めてきた同氏の退任に対し、投資家は否定的な反応を示したとされる。
(1)競合他社の参入
米国の非営利団体グッド・フード・インスティテュート(GFI)によると、現在、米国では119社がPBM商品を販売しており、PBMの小売売上高は2019年が前年比72%増、20年が同45%増と大幅に増加している(図2)。特に、植物由来鶏肉様食品では、ビヨンド・ミート社はほとんどの製品に大豆を使用しないなどの差別化を図りながら、米国内だけでも50社もの企業と市場シェアを争っているとされる。さらに、大手食肉企業も市場に参入している。世界最大の食肉企業JBS社は、コロラド州にプランテラ・フード社を設立し、PBMブランド「OZO」を展開し、発酵技術を用いてエンドウ豆とコメを原料とする食肉様食品を販売している。また、タイソン・フーズ社はビヨンド・ミート社に投資を行っていたが、同社の株を売却し、2019年に自社PBMブランド「Raised & Rooted」での製造を開始したほか、21年6月には新PBMブランド「First Pride」を発表し、海外市場にも展開を始めるとした。さらに、カーギル社もPBMブランドを立ち上げ、小売店やレストランでの販売を開始している。
市場に参入しているのは大手食肉企業だけではない。小売店による自社ブランドの立ち上げも始まっている。大手スーパーマーケットチェーンであるトレーダー・ジョーズ社やクローガー社がPBMブランドを立ち上げ、販売を開始するなど、PBMの市場シェア争いが激化している。
(2)業績不振の背景
報道によると、ビヨンド・ミート社の業績不振の一因には、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の感染拡大に伴う規制が緩和されたこともあるとしている。コロナ禍でのレストランなどの外食産業への規制に伴い食肉供給量の一時的な減少や家庭での食事機会の増加により、小売店で販売されていたPBM製品の売上げは増加傾向にあった。しかしながら、外食産業の再開が進むにつれ、PBMの売上が減少する一方、食肉の売上が増加している。このことから、外食産業に戻ってきた消費者のPBMへの熱は、PBMメーカーが期待するほどには高くなかったとされている。
直近では、上述のような動向があるものの、PBM市場が少しずつ広がりを見せている中で、ビヨンド・ミート社の低迷が一時的なものであるのか、根強い食肉需要によるものであるのか、現時点で断定することはできないが、PBMの消費の裾野が広がらない限り、市場シェア争いの激化は続くものとみられている。
【調査情報部 令和3年10月28日発】
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