米国農務省経済調査局(USDA/ERS)は2021年10月、「2003年〜2018年の1人当たりの飲用牛乳消費量の減少に関する調査」を公表した。これによると、米国の1人当たりの飲用牛乳消費量は、過去70年以上にわたって減少し続けているものの、その減少率は2000年台の年平均1.0%から、2010年台には同2.6%と、ここ10年間は拡大している。また、1970年以降、チーズやヨーグルトの消費量は約3倍に増加しているが、飲用牛乳の消費量は減少しており、その結果、米国の人口の約90%は政府が示した食事摂取基準
(注)を満たす乳製品を摂取していないことになっている。
飲用牛乳消費の減少要因として、これまで、牛乳を多く消費する人種とそうでない人種の割合の変化や高齢化などの人口動態や世代交代が関与していると示唆されてきたが、米国の人口における人口動態や世代間の変化は穏やかなものであり、飲用牛乳消費量の減少率の拡大はこれらの理由のみでは説明がつかない。今回の調査では、2003年から2018年に国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Surveys)のデータを用いて、米国の人口のうちどの層が牛乳の消費を減らしているのか、どのような消費パターンに変化したのかを調べ、この10年の減少率の拡大要因を検証している。具体的な調査の内容は、2003年から18年にかけて収集したデータを用い、個人が牛乳や乳飲料として飲む量、シリアルに加える牛乳の量、紅茶やコーヒーなど他の飲料に加える牛乳の量の経年変化を、12歳以下、13歳
〜19歳、20歳以上の3つの年齢層に分けて分析したものであり、その結果は以下の通りとなった。
- すべての年齢層で牛乳・乳飲料を飲む量が減少している。
- 牛乳を加えて食べるシリアルの消費は、すべての年齢層で減少しており、特に12歳以下での減少が大きい。
- 紅茶やコーヒーなどに加える牛乳の量は、2003年以降は、どの年齢層においても大きな変化は見られない。
これらの結果から、これまで示されてきた原因に加え、飲用牛乳消費の減少は、さまざまな要因が考えられ、特に、子供の頃に牛乳をあまり飲まずに育った若い世代は、その後もその傾向は続くことから、12歳以下の子供と13歳〜19歳の若者の消費量の減少が懸念されている。別の調査などでは、学校給食のプログラムの変化により、昼食に牛乳を飲まない生徒が増えたとするものもある。飲用牛乳の消費の減少には、他の飲料との競合や、他の朝食メニューとシリアルの競合の影響もあるとしている。米国では、植物由来の代替乳の消費が増えているが、これらの消費だけでは飲用牛乳消費の減少分を満たさない。他にもスポーツドリンクやエネルギードリンク、その他多種多様な飲料も飲用牛乳と競合する可能性があるが、これら製品のそれぞれの売り上げは小さいので、それらをまとめた製品の消費量が伸びたことが、飲用牛乳消費の減少率の拡大の要因となっていると分析している。
USDA/ERSは、今回の調査結果をさらに説明するには、競合している製品の価格や家計収入、消費者の嗜好などを考慮した追加調査が必要としながらも、今回の調査は、乳業界が製品の販売方法を改善することに役立つであろうと述べている。
今回のUSDA/ERSの調査結果を受けて、新型コロナウイルスの流行は、家計消費を増やし、飲用牛乳の売上増に貢献したが、牛乳の消費の減少率の拡大が今後も継続するのであれば、乳製品の輸出を拡大する必要があるとの現地報道もある。
(注)「米国人のための食生活ガイドライン(2020−2025年版)」によると、年齢、性別、身体活動レベルに応じて異なるものの、2歳から10歳までの子供は概ね1日にカップ換算で2〜3カップ、それ以上の人は3カップ相当の乳製品を摂取すべきであるとされている(1カップは約240ミリリットル)。1カップは、牛乳、ヨーグルトであれば1カップ、ナチュラルチーズ1.5オンス(約42.5グラム)、プロセスチーズ2オンス(約56.7グラム)である。