米政権、大手食肉企業の寡占規制を強化するための行動計画を発表(米国)
米国ホワイトハウスは2022年1月3日、大手食肉企業による寡占規制を強化するための行動計画となる「より公平で、より競争力があり、より回復力がある食肉・食鳥サプライチェーンに向けたアクション・プラン」を発表した。これは、大手食肉企業による市場の寡占は、生産者の収益の抑制と消費者の食費の上昇に繋がり、また、新型コロナウイルス感染症やサイバー攻撃などによる一部の工場閉鎖が食料システム全体に影響を及ぼすことになるとして、これら状況を改善することを目的としている。
1 アクション・プランの内容
(1)独立系施設の処理・加工能力強化
米国農務省(USDA)が大手食肉企業に依存しない食肉処理・加工施設(独立系施設)の能力強化に向け、10億米ドル(1160億円:1米ドル=116円(注))を措置(措置済みも含む)。
ア 独立系施設の処理・加工能力強化
(ア)競争力・回復力強化に向けた独立系施設の取組への支援
処理・加工能力の多様化など、短期的に最大の効果が得られる取組を支援。2022年春に第1弾(フェーズ1)として約1億5000万米ドル(174億円)、同年夏に第2弾(フェーズ2)として約2億2500万米ドル(261億円)を措置予定。
(イ)金融機関と連携した融資制度の強化
低金利の長期資金を融資可能とするため最大2億7500万米ドル(319億円)を措置。USDAは2022年夏までに提携金融機関の募集を開始予定。
(ウ)食品加工・流通インフラ整備に係る融資保証
独立系施設による保冷庫から専用機器まで幅広いインフラ整備への投資を促進するため1億米ドル(116億円)を措置して融資保証を実施(10億米ドル(1160億円)以上の融資が可能)。
イ 労働者・業界への支援
(ア)労働者の適正な賃金および安全な労働環境の確保に向けた支援
労働者の訓練、安全な労働環境、適正賃金を提供するための独立系施設の体制整備を支援するため1億米ドル(116億円)を措置。
(イ)専門技術の公開による技術革新の推進
専門技術を公開し、独立系施設や関係事業者、生産者、生産者・労働者団体などによる新たな技術の開発や既存技術の拡大を推進するため5000万米ドル(58億円)を措置。
(ウ)時間外検査費用の軽減
小規模施設が需要に対応できるよう時間外および休日検査に要する費用をそれぞれ30%、75%軽減(全体で1億米ドル(116億円)の軽減)。
(エ)食肉・食鳥検査準備助成プログラムを通じた検査体制の維持・強化
食肉・食鳥検査準備助成プログラムを通じて、連邦検査許可証の取得、共同州間輸送プログラム下での運営に要する費用を支援。5520万米ドル(64億300万円)を措置し、既に3200万米ドル(37億1200万円)を交付済み。
(2)生産者および消費者を守るための規制強化
ア パッカー・ストックヤード法に基づく新たな規制の制定
食肉加工・処理業者による不正行為を取り締まるため、2022年のうちに、パッカー・ストックヤード法の執行を強化する3つの新たな規則を制定。
イ 「Product of USA」ラベルの表示規則の見直し
消費者向けに原産地が明確となるよう「Product of USA」ラベルの表示規則の全面的見直し。
(3)現行競争法の積極的かつ公正な執行および政府一体となった競争促進
USDAおよび米国司法省(DOJ)が連携し、農業分野における競争法違反の可能性、潜在的な不公正、反競争的行為に関する情報を報告するためのポータルサイトを作成するなど、両省の取組の連携を強化する共同イニシアチブを立ち上げ。
(4)家畜市場の透明性確保・向上
ア 肉牛取引に係る新たな市場報告書の発行
USDAは2021年8月、牛の取引に関する公式な情報を発信することにより、公正で競争力のある市場を推進するため、牛肉処理・加工業者が生産者側に支払う金額に関する新たな市場報告書の発行を開始した。また、既存の制度の下、更なる透明性向上に向けた対策を検討。
イ 連邦議会との協力
家畜市場における取引価格の改善、生産者と食肉・食鳥処理・加工業者との間での適切な価格交渉に向け、連邦議会と協力。
2 業界の反応
北米食肉協会(NAMI)は1月3日、ホワイトハウスが公表したアクション・プランについて声明を発表した。この中でNAMIのポッツCEOは、「バイデン政権は、インフレを大手食肉企業に責任転嫁し、市場への政府介入に10億米ドルを措置するという同じ発表をこの半年間で3回も行っている。記者会見を行っても、税金を使って新たに施設を設立しても、食肉業界の労働力不足や経済全体のインフレの解決にはならない。投入コストやエネルギーコストの上昇、労働力不足、輸送の問題などインフレの原因になっている問題は食肉業界でも同じだ」と反発の姿勢を示した。
また、NAMIは、1994年以降の牛肉市場のすべての部門・段階における利益率の推移を紹介し、食肉処理・加工業者が他の部門・段階を犠牲にして利益を得ているわけではないと主張した。さらに、クリントン政権時代の財務長官、オバマ政権時代の国家経済会議部長を務めた現ハーバード大学名誉学長であるサマーズ氏の「競争法がインフレに対抗できるという主張は科学の否定である」「価格高騰など食肉業界で起きていることは、食肉の需要増加、生産能力の制約、労働力不足によってすべて説明可能である」という政権への批判的なSNS発信を紹介するなど、政権の分析を強く批判した。
一方、米国肉牛生産者協会(USCA)は、ホワイトハウスの発表は同協会が長年にわたり求めてきたことであり、独立系施設に権限を与え、より強固で回復力のある食料システムを構築することを実行に移すものであるとし、同プランが生体牛市場に透明性と真の価格の発現をもたらし、「Product of the USA」ラベルの抜け道を塞ぐことで表示の信ぴょう性を取り戻し、より強靭で真に米国の食肉産業に投資する一助となることを期待しているとの声明を発表した。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2021年12月末TTS相場。
【調査情報部 令和4年1月18日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9805