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母豚の飼育環境規制強化に関するカリフォルニア州法の施行が停止(米国)

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 家畜の飼育環境規制の強化に関するカリフォルニア州法第12号(注)のうち、未施行となっていた母豚に関する規定が2022年1月1日に完全施行されたが、カリフォルニア州高等裁判所は同月24日、同法の当該規定の施行の停止を決定した。
 同法では、カリフォルニア州食品農業局が、生産者に求める具体的なルールが定められた施行規則を公布することとされている。しかし、この施行規則は20年までに公布されることになっていたにもかかわらず、母豚に関する規定については、現在も公布されていない。同州高等裁判所は、「22年1月1日という日付は、20年1月に同施行規則が公布された後に、生産者が新しい設備を整備するのに必要な日数を勘案して計算されたもの」とし、この施行規則の遅延を理由に、当該規定の施行を停止することを決定した。今回の決定により、施行規則が公布されてから180日後に同法の当該規定が施行されることとなった。
 なお、カリフォルニア食料品店協会(California Grocers Association)などの食料品小売業者や食肉加工業者(Kruse & Son社)などからなる申立人は、施行規則の公布から28カ月後までの延期を主張していたが、それは却下されている。
 
(注)カリフォルニア州法第12号とこれまでの経緯については、12月22日発海外情報「母豚の飼育環境の規制強化に係るカリフォルニア州法の施行が迫る(米国)」参照のこと。

業界の反応

 米国の豚肉業界関係者は、今回のカルフォルニア州高等裁判所の決定を称賛している。
 北米食肉協会(NAMI)のポッツ会長兼CEOは、「今回の決定は、豚肉のサプライチェーンの複雑さと、同法の実施に伴うコスト負担の大きさを認めたものだ」と妥当な結果であるとした。また、「最終的に施行規則が発効しないまま法律の当該規定を施行することは、市場に豚肉を供給するために業界が遵守すべきルールや、どのように畜舎を改築する必要があるのか、不明なままとなる」と述べ、困惑を表した。
 また、全米最大の農業者団体であるアメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)のデュバル会長は、「今回の決定を喜ばしく思う」とし、「カリフォルニア州の有権者は、この法律が動物福祉と食品安全を向上させると聞かされているが、その目的のいずれも達成できない」と述べた。さらに同氏は、「同法は、小売業者に不当な圧力をかけるだけでなく、豚を安全な環境で飼育するための生産者の柔軟性を奪ってしまう。全国の小規模農家は、コストのかかる不必要な変更を余儀なくされ、その結果、統合が進み、米国の食料価格が上昇することとなる。一つの州の法律が、国全体のルールを決めるべきではない」と主張している。
 全米豚肉生産者協議会(NPPC)とAFBFは、現在、カリフォルニア州法12号が憲法に定める州間商取引条項に違法し、州をまたぐ商取引の規制を制限しているとして、最高裁へ上告している。NPPCによると、この訴訟の審理を受け入れるか否かについての発表が間もなく行われるとしている。NPPCのフォーミュカ顧問は、「今回の決定は一時的な救済措置に過ぎない。生産者は、同法に対する異議申し立てが審理されるかどうかを待っている。同法が完全に実施されれば、米国の家族経営の農家に壊滅的な経済的ダメージを与え、多くの農家が廃業に追い込まれ、米国の豚肉産業の国際競争力が損なわれることになるだろう」と懸念を示した。

法施行後のカリフォルニア州の豚肉販売状況

 現地報道によると、22年1月1日以降、同州の豚肉市場に急激な変化は生じていない。これは、同州の豚肉供給量の約3%を占めるとされる食肉大手のSeaboard社とTyson社が、1月1日以降、同州内の顧客に対象となる豚肉製品の販売を中止したものの、両社ともそれ以前に前倒しで出荷している可能性が高いこと、また、この2社以外に同州への出荷を希望している企業があることをその理由としている。
 なお、同法の母豚に一定の面積を求める規定は、22年1月1日以降に生まれた豚に適用されるとしているため、それ以前に生まれた豚の豚肉在庫がなくなると想定される本年6月下旬から7月上旬以降の動向が着目されていたが、今回の停止で状況は先延ばしされた形となった。
【上村 照子 令和4年2月10日発】
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