2022年の豚総出荷頭数、アフリカ豚熱などの影響で減少見込み(タイ)
タイの現地報道によると、タイ農業・協同組合省畜産局が実施した全国調査の結果、2022年の豚総出荷頭数は前年比約12%減と、かなり大きく減少することが明らかとなった(注1)。また、これまで同国の養豚生産戸数は約18万戸とされていたものが、今回の調査で約10万7000戸まで減少していることも判明した。タイ国内では、小規模の養豚生産者が多数を占める一方で、飼養頭数の約7割が中規模以上の生産者によるものとされている。生産戸数の減少について同局は、小規模の養豚生産者を中心に、新型コロナウイルス感染症の影響により豚肉の需給見通しが困難であると考え、経済停滞による需給緩和の懸念から、子豚の導入を見送る傾向にあることを要因に挙げている。また、22年の豚肉生産量についても、出荷頭数の減少に加え、アフリカ豚熱対策として飼養密度の低減に取り組む養豚生産者もいるため、減少すると見込んでいる。
一方で、米国農務省(USDA)は、同年のタイの豚総出荷頭数を1200万から1300万頭と予測しており、アフリカ豚熱が発生する前の平均豚出荷頭数である約2000万頭から35〜40%ほど減少すると見込んでいる。
タイでは、アフリカ豚熱のほか豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)などによる豚出荷頭数の減少に加え、飼料価格の高騰により19年から生体豚価格が上昇している。22年1月の生体豚の農家出荷価格は、1キログラム当たり96バーツ(336円、1バーツ=3.5円(注2))と前年同月比27%高となっている(図)。また、国内の取引業者によると、生体豚価格の上昇を受けて22年の平均豚肉小売価格は、前年比で3割高となる同190バーツから220バーツ(665〜770円)で推移すると予測している。豚肉価格の高騰は鶏肉需給にも影響を及ぼしており、豚肉の代替需要を受け、22年1月の生体鶏農家出荷価格も前年比で約16%上昇した。
このような状況に対処するため、タイ商務省は22年1月末までの間、国内1500店舗を対象に、豚肉を同150バーツ(525円)で販売するキャンペーンを展開した(表)。また、同省は、国内の鶏肉取引業者との間で緊急協議を行い、消費者の鶏肉購入支援として22年6月末までの間、価格を据え置くことで合意している。価格は生体鶏が同33.5バーツ(117円)、丸鶏およびもも肉が同60〜65バーツ(210〜228円)、むね肉が同65〜70バーツ(228〜245円)とされている。
さらに、タイ政府は、上昇する豚肉価格を抑制するため様々な対策を検討しており、生体豚輸出の限定的停止(3カ月間:1月6日時点)や家畜用輸入飼料の減税、小規模養豚生産者への特別融資による生産振興などの施策が進められている。
タイの豚肉需給がひっ迫傾向にある中、米国豚肉生産者協議会(NPPC)は、タイに対して米国産豚肉輸入の拡大を求めている。NPPCによると、同国が必要最低限の豚肉輸入しか行っておらず、また、そのほとんどを欧州から調達しており、米国産豚肉の輸入がわずかなのは米国に対する輸入障壁が市場アクセスを阻害としているためだとしている。
なお、フィリピンでは同国内でのアフリカ豚熱の発生に伴う豚肉供給不足から、21年以降、米国産豚肉の同国向け輸出が大きく伸びている。
(注1)同省農業経済局によると、2020年の豚総出荷頭数は2045万頭(暫定値)とされている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の1月末TTS相場。
【海老沼一出 令和4年2月16日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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