畜産 畜産分野の各種業務の情報、情報誌「畜産の情報」の記事、統計資料など

ホーム > 畜産 > 海外情報 > 2022年 > 欧州委員会、豚に関する市場介入措置の要請を再度拒否(EU)

欧州委員会、豚に関する市場介入措置の要請を再度拒否(EU)

印刷ページ
 2月21日に開催されたEU農業理事会で、ポーランドがハンガリー、ラトビアと連名で要請していた豚肉に関する市場介入措置の実施について、欧州委員会はこれを認めないとする回答を発表した。
 これに先立ち、1月17日のEU農業理事会でチェコから出された同様の要望および2月2日に欧州議会農業委員会から提出された欧州委員会による豚肉に関する市場介入措置の実施要請については、いずれも拒否されていた。今回のポーランドからの要請は、農業理事会に提出された5回目のものであった(注1)。

(注1)海外情報「欧州委員会、豚肉の市場介入措置の発動要請を3回連続で拒否(EU)」を参照されたい。

 今回の要請書の中でポーランドは、「豚肉市場は悪化の一途をたどっている。豚肉の価格は依然として低迷しており、生産コストの上昇と相まって採算が合わなくなっている。ポーランドでは過去5年間で、中小規模の養豚場の数が50%以上減少している」と訴えていた。
 また、欧州議会農業委員会のリンス委員長(独、欧州人民党)も1月28日、同委員会を代表して以下を理由に養豚生産者への影響を緩和するため、欧州委員会に対し介入措置を実施するよう要請していた。
・飼料価格やエネルギー価格の上昇による生産コストの上昇や中国の豚肉輸入需要の減少、またEU加盟国の一部でのアフリカ豚熱の発生による域外への輸出制限などによる域内供給過剰によって、養豚経営が危機的に悪化していること
・農村開発プログラムの利用や、加盟国単独の対策では、現在の危機的な状況に対応しきれないこと

 欧州議会農業委員会からの要請に対し欧州委員会のボイチェホフスキ農業担当委員(ポーランド出身)は、以下を理由にEUレベルでの介入措置を行わないとの回答を行っている。
・農業委員会からの要請はEU全27加盟国のうち13カ国しか賛同しておらず、EUの豚飼養頭数の3分の2を占める7カ国(ドイツ、スペイン、イタリア、デンマーク、オランダ、スウェーデン、フィンランド)が欧州員会による市場介入を支持していないこと
・既に一部の加盟国(フランス、ポーランドなど)が個別に大規模な対策の実施を決定したこと
・緊急対策予算を使った対策には欧州議会と閣僚理事会の承認が必要であり、時間を要すること
・加盟国の全てが賛成していない状況では、承認される見通しが立たないこと。
・介入措置を豚飼養頭数あるいは養豚生産者数を基にするのかなどを議論する必要がある(さらに時間を要する)こと
・欧州全域の150万戸の養豚生産者にとっては、緊急対策として手当てされている約5億ユーロ(654億円:1ユーロ=130.84円(注2))の予算規模は決して十分な規模とは言えないこと
・2%の養豚生産者が75%の豚を飼育している現状で、どのような対策が適切か議論を行う必要もあること
・新規市場開拓の一環として、シンガポールとベトナムへの訪問の際に養豚関係者の同行を予定しており、市場開拓の機会が得られること
・生産コストの上昇の原因である生産資材やエネルギー価格の高騰を解決するために、欧州委員会は今後とも積極的に解決に向けて努力するとしていること
 今回のポーランドの要請に対しても同様の理由で回答したものと見られる。

 欧州家畜食肉貿易業者連合(UECBV)は今回の発表に関連する立場を明らかにしていないが、同団体からの聞き取りによると、加盟国別に異なった措置を行うことによる市場の歪みを懸念する一方で、過去に行われたような民間在庫補助を想定した場合、利用できる財源が限られており、文字通り「焼け石に水」になってしまう恐れがあるとしている。さらに、現時点で保管施設に余裕がないこと、一定期間保管した後に豚肉を放出する際の基準など、解決すべき課題もあるとし、方向性が見えにくい事態にあるとのことである。

 一方で、ドイツ養豚生産者協会(ISN)は2月24日、ボイチェホフスキ農業担当委員の見解を支持する声明を発出した。その中で、生産コストが上昇する中、市況は低迷しドイツの生産者は存亡の危機に陥っていることは確かであるとしつつも、価格は昨年に比べ下げ止まっていること、ドイツが飼育頭数を大きく減らしている一方、例えば(中国への輸出が継続している)スペインは21年に過去最大の飼育頭数であったと述べ、加盟国による状況の差があることから、個別加盟国別に支援が行われることが好ましいとしている。

(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年2月末TTS相場。
【調査情報部 令和4年3月3日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527