ABARES、園芸作物の需給見通しを公表(豪州)
最終更新日:2022年3月17日
2022年3月1日〜4日の4日間にわたり、豪州農業資源経済科学局(ABARES)による22年豪州農業需給観測会議(以下「アウトルック」という)が開催された。本稿では、アウトルックに合わせて公表されたABARESによる今後5年間(2022/23〜26/27年度(注1)。以下「見通し期間」という)の同国における園芸作物の需給動向分析およびアウトルックで発表された特筆すべき話題について紹介する(注2)。
(注1)豪州の年度は7月〜翌6月。
(注2)豪州の畜産関係の需給動向等については、「畜産の情報5月号」で特集記事を掲載予定。
21/22年度の園芸作物の生産量は、夏から秋にかけて気象条件が良好であったことから全般的に好調な生産が見込まれている。このうち、豪州が日本の輸入先第4位(注3)となっているたまねぎおよびにんじんに注目すると、たまねぎ(注4)は31万トン(前年度比8.4%増)、にんじんは29万トン(同6.8%増)といずれもかなり増加すると見込まれている(図)。
また、園芸作物全般に関する事項として、安定的な生産が見込まれる中、生産および流通現場での労働力不足から、同年度の農産物価格は高止まりが見込まれており、園芸作物全体の産出額は、過去2番目の高水準となる120億ドル(1兆194億円:1豪ドル=84.95円(注5)、同0.9%増)に達すると見込まれている。さらに、同年度の輸出については、生産量は好調であるものの、輸送コストの上昇や冷蔵コンテナ不足により、一定程度の制約を受けると見込まれている。
(注3)ベジ探「品目別・輸入先国・数量・金額・単価」の21年の国別輸入量順位。
(注4)豪州を含めたオセアニアの玉ねぎの生産・輸出動向については、「野菜の情報4月号」で特集記事を掲載予定。
(注5)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年2月末TTS相場。
22/23年度は、平年並みの気象条件に戻ることが予測されているが、灌漑(かんがい)用水の利用価格が低水準であり潤沢な利水が可能であることなどから、生産量は前年度に比べれば減少するものの、比較的高水準で推移すると予測されている(たまねぎ:29万トン、同6.6%減。にんじん:29万トン、同2.0%減)。なお、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)による国境閉鎖措置の見直しに伴いワーキング・ホリデーによる労働者が徐々に戻ってくると予測されるため、労働力不足は一定程度緩和されるとしている。
また、輸出については、労働力確保に要するコストが軽減され生産者が農産物検査などに集中できるようになること、また、物流の混乱が緩和され、より迅速な配送が可能になることなどから、豪州産園芸作物への需要が高まり、輸出額が増加すると予測している。
23/24年度以降については、アボカドなどの成長品目を中心に生産量は増加すると予測している。輸出については、世界経済のCOVID−19からの回復速度と、サプライチェーンの混乱解消に要する時間により伸び率は異なるものの、見通し期間を通してアジア諸国を中心に豪州産園芸作物に対する需要が高まるため、増加基調で推移すると予測している。
従来、季節労働者に頼ってきた豪州農業にとって、COVID−19に起因する国境閉鎖措置などによる外国人労働者不足は深刻な問題であり、アウトルックでもその実情などが紹介された。その対策として連邦政府は、例えば22年1月には、学生ビザ保有者に対する労働時間制限の撤廃や、ワーキング・ホリデービザ保有者に対する同一雇用主の下での従事期間制限の緩和など、一時的な措置とはしながらも様々な制限解除を進めてきた。同時に生産現場では、不足する労働力を補うため、機械化やAI利用の促進など労働生産性向上に向けた取り組みも進められている。
また、アウトルックでは、買い手が豪州の園芸作物に求めるものは「品質・供給力・価値」であること、買い手は「自分たちが手にする作物がどのように作られたか」により関心を持つようになっており、労働力、アニマルウェルフェア、包装、環境などに関する持続可能性への取り組みが重視されてきているとの意見が聞かれた。「豪州ならではの価値の訴求」は、同会議の畜産関係のセッションでも言及されており、今後の豪州農業を支える一つの大きな柱になるとみられる。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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