ロシアのウクライナ侵攻による穀物需給への影響
ウクライナの穀物概況
米国農務省(USDA)が3月9日に公表した世界農業需給予測(WASDE)によると、2020/21年度の世界全体の穀物輸出量のうち、ロシア産とウクライナ産を合わせると、小麦が約3割、トウモロコシが約2割を占めている。同年度のウクライナ産小麦の主な輸出先はインドネシア、エジプト、パキスタン、バングラデッシュ、モロッコなどであり、ウクライナからの輸出が停止したことで、これらの国々に大きな影響が生じるとみられている。また、同国からのトウモロコシの輸出先は中国、EU、エジプト、イランなどである。
EUについては、両国からの輸入量がトウモロコシで域内消費量の1割近く占める一方、小麦は1%程度に限られる。このことから、EUにとってはトウモロコシへの影響が大きく、すなわち家畜飼料への影響が危惧される。
ウクライナの主な穀物積出港は、黒海沿岸のオデッサとニコラエフなど図1の赤丸部分に位置しているが、これらは現在、商用の積み出しが停止されている(注1)。
(注1)2022年3月18日現在の情報
ウクライナ農業政策・食料省などによる現地情報
この紛争下にあっても、ウクライナの農業政策・食料省は情報発信を続けている(表)。
同省によると、ウクライナには国内消費に対して十分な穀物備蓄があること、春播作物の作付面積は減少するものの、作付けを行うための十分な種子や肥料などがあるとしている。また、主要作物や肥料の輸出を禁止または許可制とし、政府による統制を強化している。
輸出について同省のレスチェンコ大臣は3月18日付けの声明で、西側に隣接するモルドバやルーマニアを経由する鉄道による穀物輸出ルートを検討し、ロシアの占領地域でない隣国の黒海に面する港を経由して穀物を送るための交渉に取り組んでいるとしている。これにより、少なくとも1つの港を確保して月500万トンの輸出が可能になれば、致命的な輸出機会の喪失にはならないと述べている。
ウクライナやCIS(独立国家共同体)諸国(注2)の農業情報を提供するAPKインフォーム社の3月16日付の記事によると、ウクライナ農業政策・食料省の情報として、春播作物について、通常の作付面積のうち、5割は作付けが行われるとの見通しが示される一方、2割が見通し不明、3割は作付けが断念されるのではないかとしている。さらに、燃料が大幅に不足し、種子などの生産資材の配送についても懸念されている。
ウクライナでは、春播作物はトウモロコシ、大麦、ひまわりなどであり、小麦は秋播で収穫時期は7〜8月となっている(図2)。
(注2):アゼルバイジャン、アルメニア、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ベラルーシ、モルドバ、ロシア、トルクメニスタンが該当
農産物の世界需給への影響
オランダの農協系金融機関ラボバンクが3月9日に公表したウクライナ情勢が穀物および植物油業界に与える影響を予測したレポートによると、影響の程度は情勢の変化によって大きく左右されるとしつつも、22年に小麦価格は2倍、植物油価格は2割、トウモロコシおよび大麦の価格は3割上昇するとしている。
【調査情報部 令和4年3月25日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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