豪州東部の洪水による畜産業への影響(豪州)
豪州では、2年連続となるラニーニャ現象が要因となり、東海岸沿いを中心に2022年2月下旬から断続的に大雨が降り(図1)、20人以上の死者を出す洪水災害が発生している。3月中旬にいったん大雨は収束するかに見えたものの、同月下旬にも再度大雨が降り、リズモア(ブリスベンから南に約200キロメートル)などの一部地域で洪水被害が発生している。
この大雨および洪水による豪州畜産業への影響について、関係機関への独自取材を行った。その概要は以下の通りである。
・豪州食肉家畜生産者事業団(MLA)
今般の大雨および洪水の影響で、カシノ(ブリスベンから南に約220キロメートル)やトゥーンバ(ブリスベンから西に約130キロメートル)、シングルトン(シドニーから北に約200キロメートル)などの主要家畜市場は道路の寸断などにより1週間閉鎖せざるを得なかったが、東部地区若齢牛指標(EYCI)には大きな変化はみられていない(図2)。
また、2月末の大雨で一部の食肉加工施設で浸水被害があったため、2月28日の週(2月28日〜3月4日)のと畜頭数は7万9422頭(前週比14.7%減)とかなり大きく減少した(図3)。しかしながら、翌週には9万2192頭(同16.1%増)に回復し、以降も安定して推移するなど、影響は軽微であった。
なお、4月5日現在、3月末の大雨による影響はまだ判明していない。
・トーマスエルダーマーケッツ(TEM、畜産調査会社)
2月末に洪水が発生した地域の牛の飼養頭数は約47万5000頭であり、豪州全体で飼養される肉用牛の約2%となる(図4、5)。このため、19年にクイーンズランド(QLD)州北部で発生した洪水により推定60万頭の肉用牛に被害があった時ほどの影響はない。
なお、大雨および洪水による酪農関係の被害について、酪農乳業団体であるデイリー・オーストラリア(DA)に取材を申し込んでいるものの、4月5日現在、具体的な回答は得られていない。しかしながら、3月9日の現地報道では、DAの広報担当者が、洪水被害を受けた酪農家は100戸以上あり、生乳廃棄も行われているとコメントしている。なお、シドニー市内の小売店の牛乳・乳製品販売棚を確認したものの、2月から4月5日現在まで、特に欠品や供給の遅れなどはみられていない。
また、豪州最大の牛肉輸出港であるブリスベン港では、洪水により2月28日から稼働が停止されていたが、同港を管理するポート・オブ・ブリスベン社の発表(3月15日)によると、がれきなどの堆積物の除去作業により、一部で制限があるものの、通常の稼働に近づいているとしており、4月5日現在では、船舶の航行に支障があるという情報はない。
なお、このブリスベン港の一時的な閉鎖による牛肉輸出への影響についてMLAに取材したところ、4月5日時点では不明とのことであった。一方で現地報道によると、欧州や米国など遠方の輸出市場向け冷蔵牛肉について、通例であればと畜から80〜90日以内に到着するが、従前からの新型コロナウイルス感染症(COVID−19)に起因するコンテナ不足に加え、今般の同港の一時的な稼働停止により、食肉加工業者からは(着荷遅延による)輸出先での賞味期限が短縮されることを懸念する声が聞かれるとしている。
今後の気象見通しについて豪州気象庁(BOM)は、ラニーニャ現象は晩秋(5月頃)まで継続すると予想している。また、4月の降水確率予想図でも、豪州北部から東部の広い地域で平年以上の高い確率としていることから(図6)、今後も継続した状況の注視が求められている。
【調査情報部 令和4年4月7日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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