米国鶏肉業界、2022年の課題を掲げる(米国)
米国鶏肉業界紙「WATT Poultry」は2022年3月、米国鶏肉業界関係者の声をまとめ、本年の米国鶏肉産業の展望として、7つの大きな課題を発表した。全体として、同業界は成長が続くと見通しているが、新型コロナウイルス感染症の拡大(パンデミック)による影響は依然として続いており、同業界が抱える問題が22年の鶏肉の生産性と収益性に影響を与えると予測している。
1 飼料価格の高騰
トウモロコシ、大豆、飼料添加物などの供給が肥料価格高騰により減少する中、需要の増加、在庫の減少、食料価格上昇などの影響を受け飼料原料価格は上昇しており、22年も続く見通しである(図1、2)。
オランダ農協系金融機関ラボバンクおよび家畜用飼料添加物などを製造するダイヤモンドV社は、飼料製造業者による飼料の配合割合の変更が相次ぐと予測しており、頻繁な変更は鶏の健康に悪影響を及ぼすとし、適切にエネルギーやタンパク質を供給できる配合にすべきと警告した。
2 サプライチェーンの混乱
サプライチェーンの混乱は鶏・飼料・資材の輸送、飼料原料の入手、輸送費などに影響を及ぼしており、22年も続く見通しである。
動物用栄養補助剤などの原料供給を行うケミン動物栄養衛生社および米国農協系金融機関コバンクは、鶏の出荷や飼料の配送の遅延が継続し、特に、十分な飼料原料と飼料添加物の入手は今後も課題となるとして、飼料製造業者による過剰な原料確保は業界全体に負担をかけてしまうと注意喚起した。
3 労働力不足
パンデミックは、飼料製造・鶏肉生産・加工の労働力不足を加速させた。米国労働統計局(BLS)によると、鶏肉加工業の従業員の時間給は20年2月以降、約22%上昇しているが、従業員数は6%減少している。
コンサルティングを行うIHSマーキット社および種鶏飼養とふ卵を行うエイヴィアジェン社は、養鶏・鶏肉業界には、競争力のある賃金と福利厚生の提供、労働環境の改善が必要であるという。同時に、より少ない労働力で最大の効果を引き出す施設設計と自動化を進めるべきだと提案した。
4 インフレと食料安全保障への懸念
コストプッシュインフレ(注1)により、鶏肉生産コストは依然として上昇が続き、消費者価格への転嫁が進む見通しである(図3、4)。
ラボバンクは、鶏肉を含む食品価格は高水準で推移し、各国政府間でも食料のインフレと食料安全保障に懸念が示されているとしている。また、低所得国の消費者需要が鶏肉よりも安価なタンパク質の供給源に移行する可能性があり、鶏肉消費に影響が生じる可能性があるとした。
(注1)生産コストの上昇により生じるインフレのこと
5 ふ化率の低下
近年続くふ化率の低下により、21年の種鶏飼養羽数がパンデミック前と比較して約6%増加したにも関わらず、種鶏卵の生産量は約1%減少した。
米国鶏肉インテグレーター大手のタイソン・フーズ社は、21年半ばにふ化率低下の要因として新たに使用が開始された種雄鶏の品種遺伝に起因すると報告したが、同社のふ化率の改善は23年以降になるとみられている。
6 家きん疾病の発生
現在、米国内では高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が続いている。
エイヴィアジェン社は、生産者によるバイオセキュリティの強化が最重要であるとしつつ、連邦政府が取り組むべきこととして、HPAIの発生時においても認定施設からの種鶏卵やひなの輸出を維持することが重要であるとし、コンパートメント主義(注2)の適用を挙げた。
(注2)疾病発生地域であっても、「高度な衛生管理により、清浄であると認められる特定の動物亜群(コンパートメント)」からの輸入を認めるという概念
7 持続可能性とアニマルウェルフェア
消費者は、フードサプライチェーン全体の透明性と持続可能性を求めており、消費者自身と同じ価値観を持つ企業が生産する食品を購入するようになってきた。
ケミン動物栄養衛生社は、生産者にとっては疾病に強い生産成績のものが優秀な鶏であるが、消費者にとって高い福祉基準に沿って飼養された鶏が高品質で健康な鶏肉であるため、生産性・収益性向上のためにも消費者動向を利用すべきと提案した。
【調査情報部 令和4年4月12日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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