メキシコ養豚・豚肉業界の2022年の展望(メキシコ)
米国農務省海外農業局(USDA/FAS)は3月29日、2022年のメキシコ養豚・豚肉業界の見通しを発表した。これによると、飼料価格の高騰やインフレによる生産コストが増加する一方で、新型コロナウイルス感染症の拡大(パンデミック)からの回復もあり、養豚・豚肉業界の収益性は堅調に推移すると予測している。以下にその概要を報告する。
1 養豚の展望
(1)子豚出生頭数
22年の子豚出生頭数は2185万頭(前年比5.0%増)と増加が見込まれる(図1)。メキシコ養豚業界は、生産性を向上させるために、養豚施設の更新、給餌・給水方法の改善、ふん尿処理の改善、アニマルウェルフェアの向上、動物用医薬品使用方法の改善、鳥獣害対策などに幅広く取り組んでおり、同国内の飼養豚の健康状態は良好を保ち、疾病発生率も低く抑えている。
また、アフリカ豚熱(ASF)の国内侵入リスクの高まり(注1)を受け、生産者はバイオセキュリティの向上に取り組むとともに、万が一、ASFが発生した場合に備え、豚群を異なる地域に分散させる対応を取っている。
(注1)これまでに北米、南米大陸ではASFの発生は確認されていなかったが、21年7月にドミニカ共和国、同年9月にハイチといったメキシコ周辺国でASFの発生が確認されている。
(2)と畜頭数
22年のと畜頭数も2060万頭(前年比4.6%増)と増加が見込まれる(図2)。これはパンデミックからの回復に伴う外食(HRI:ホテル・レストラン・給食部門)、家庭内のタンパク質需要の増加に伴う豚肉需要の増加によるものである。
また、養豚業者は安全性に関する消費者需要に応えるため、連邦検査対応(TIF)施設でのと畜を増加させており、豚肉処理・加工業者はTIF施設への投資を増やしている。
(3)生体豚輸入
22年の生体豚輸入は2万頭(前年比33.3%増)と大幅増が見込まれる(図3)。豚の輸入は主に遺伝改良を目的としているが、ASFの発生リスクの高まりから、養豚業者は国内の豚を利用した遺伝改良に移行しているため、輸入量増加に抑制の圧力も働いている。
2 豚肉の展望
(1)生産量
22年の豚肉生産量は158万トン(前年比6.4%増)と増加が見込まれる(図4)。これは国内需要と輸出量の増加によるものである。メキシコではパンデミック後の経済活動の再開に伴い、レストランや屋台などでの外食が増加しており、豚肉需要が増加している。
(2)消費量
22年の豚肉消費量は245万トン(前年比6.3%増)と増加が見込まれる(図5)。前述のとおり、外食および家庭内食での豚肉需要が増加しており、メキシコ国立統計地理情報院(INEGI)によると、家計支出のうち豚肉購入に回されている額は6.4%増加しているという。食品価格のインフレは一定程度、消費量増加に抑制的に働くと見込まれるが、同国の消費者にとって豚肉は鶏肉に次ぐ重要な動物性タンパク質の供給源であり、バラエティーミート(内臓)を含む割安な豚肉需要は増加を続けると予測される。
(3)輸入量
22年の豚肉輸入量は125万5000トン(前年比9.1%増)と増加が見込まれる(図6)。国内需要を満たすために輸入量の増加で対応するとみられる。価格の高いロイン系部位はHRI向けであり、もも、うでなどが加工向けとして輸入される見込みである。
(4)輸出量
メキシコ税関によると、21年の豚肉輸出額は9億4400万米ドル(約1165億円:1米ドル=123.39円(注2)、前年比16.7%増)と増加しており、22年の輸出量も38万5000トン(前年比8.4%増)と増加が見込まれる(図7)。豚肉業者は米国、日本、韓国市場を重視しており、ロイン系などの高級部位中心に輸出を維持する意向である。一方で、中国向け輸出量の増加見込みは薄いとみられている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2022年3月末TTS相場。
【調査情報部 令和4年4月13日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ 伊藤瑞基)
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