欧州委員会、汚染物質排出制限強化で畜産生産者の範囲拡大案を発表(EU)
欧州委員会は4月5日、産業から発生する汚染物質の排出制限を強化する産業排出指令の改正案を発表した。同委員会によると、この改正案は欧州グリーンディールの目標である2050年までに気候中立(注1)を実現するために重要な指針であるとされている。
今回の改正案により、養鶏・養豚生産者のみならず、新たに牛を飼育する生産者のうち、150家畜単位(LSU)(注2)以上の飼育規模も対象とされた。これは乳牛で150頭、肥育豚で300頭、肉用鶏で2万羽強、採卵鶏で1万羽強に相当する(表)。
対象となった生産者は、「利用可能な最良の技術(BAT)(注3)」を導入し、排出要件を順守することが求められる。一方で、今回の改正では、既存および新規に対象となる畜産生産者に対し、認可手続きの負担を軽減するとされている。
(注1)温室効果ガス排出量が実質ゼロとなった状態
(注2)家畜の種別ごとに、飼料要求量に基づいて設定された係数。この係数を使用することにより、畜種および年齢の異なる家畜を共通の基準単位であらわすことができる。1LSUは、濃厚飼料を給餌せず年間3000キログラムの牛乳を生産する乳牛1頭が排出するメタンなどの温室効果ガスに相当。使用する係数は、以下の表を参照。
(注3)Best Available Techniquesの略で、「汚染物質の環境への排出を最大限抑制する、現実的に利用可能な最新のプロセス、施設、装置」(一般財団法人環境イノベーション情報機構による)。欧州委員会の共同研究センター(JRC)の文書によれば、資源の効率的な利用や、汚水、悪臭、アンモニアの排出削減を目的とした設備(例:雨水と汚水の分離設備、貯留槽の冷却設備、スクラバー)導入といったハード面の対応に加え、従業員のトレーニング、汚染物質の予期せぬ排出が発生したときの対応計画の策定といったソフト面での対応方法が含まれており、様々な技術の組み合わせによる対応が認められている。
改正案によってEUの畜産生産者のうち、全体の13%を占める18万5000戸(現行規制では2万0000戸)が対象となり、これは、畜産部門から排出されるアンモニアの60%(現行規制では18%)、メタンの43%(同3%)に相当する。
これにより、欧州委員会は年間26万5000トンのメタン排出量(牛は22万9000トン、豚・家きんは3万6000トン)、年間12万8000トンのアンモニア排出量(牛は5万トン、豚・家きんは7万8000トン)が削減されると見込んでいる。
この改正案に対して、農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(Copa-Cogeca)は4月6日、同日付のプレスリリースを通じ不満を表明した。具体的には、この改正案によって現行の10倍近くの数の生産者が、大規模企業に求められるような費用や労力を要する手続きを強いられることになるとしている。また、対象となる畜産生産者が全生産者の13%に過ぎないとする欧州委員会の説明に対し、ドイツやフィンランドの肉養鶏生産者の9割、フランスの養豚、肉牛、酪農生産者の9割がそれぞれ対象となるとの例を挙げ、今回の改正内容は生産者の実態と大きく乖離しているとして非難している。
同様にフランスのドノルマンディー農業・食料大臣は4月5日、自身のツイッターを通じ、欧州委員会の提案は「生産者の実態を考慮しないばかげたものであり、閣僚理事会の場で戦う」とのコメントを発出した。
一方、NGO団体グリーンピースは4月5日、現行の規制よりも対象が拡大することを歓迎しつつも、草案段階の内容より基準が緩和されていることを非難している。
今後、法案は閣僚理事会および欧州議会での審議を通じ、内容は修正される可能性がある。
【調査情報部 令和4年5月12日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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