NZ産ネット・カーボン・ゼロ・アンガスビーフを販売(米国)
ニュージーランド(NZ)のシルバー・ファーン・ファーム社(注1)は、2022年3月から米国で「ネット・カーボン・ゼロ・アンガスビーフ」の販売を開始した。この牛肉は、肉用牛の飼養管理の工程で排出される温室効果ガス(GHG)が正味ゼロであることをうたっている。
(注1)同社は、NZの大手食肉加工会社で、牧草肥育された(グラスフェッド)牛肉やラム肉などを米国始め多くの国に輸出している。
1 カーボン・インセット方式による牛肉生産
この「ネット・カーボン・ゼロ・アンガスビーフ」について同社は、カーボン・インセット方式で生産している。具体的には外部からカーボン・クレジットを購入して自社のGHG排出量を相殺するカーボン・オフセットに対して、自社内で炭素隔離(注2)を行うことによってGHG排出量を相殺する(実質排出量をゼロとする)仕組みである。
(注2)炭素隔離とは、大気中への二酸化炭素の排出を抑制する手段のことで、生物学的には、植物の光合成により二酸化炭素を吸収し、植物の細胞壁の主成分でもあるセルロースやリグニンあるいは土壌中の有機炭素として貯蔵することをいう。
同社は18年、牛肉生産工程で発生するGHGの96%が農場で発生しているとの認識の下、農場内の植生からの炭素吸収能力を測定して地図に落とし込むプログラムを作成した。そして、衛星技術とAI技術を駆使し、農場内の森林、草原、牧草地のほか、再生中の原生林、水辺の植生、動物保護施設などあらゆる植生の炭素吸収量を測定することに成功した。
その結果、NZの農業科学機関であるアグリリサーチ社の支持を得て、環境検証機関であるToitu Envirocare社により、「ネット・カーボン・ゼロ」が認証された。
2 米国での販売
NZ産の「ネット・カーボン・ゼロ・アンガスビーフ」にはサーロイン、ヒレ、リブロース、ひき肉の4種類があり、3月から米国ニューヨーク75店舗、ロサンゼルス数店舗のスーパーマーケットで販売を開始した。4月には大手スーパーマーケットチェーン・ジュエルオスコ社134店舗でも販売を開始したという。
ニューヨーク市内では、一般的なスーパーマーケットのダゴスティーノ、グリステデスなどの店舗で取り扱っている(写真1〜3)。ダゴスティーノの店舗によると、売り上げは好調であり、サーロイン、ヒレ、リブロースではそれぞれ1日最低2個は売れているほか、ひき肉は品切れが続いているという。価格帯は通常の牛肉よりも高めに設定されており、同店舗では高級牛肉とされるサーティファイド・アンガスビーフ(CAB)(注3)よりも高値であった(表)。
(注3)CABは、米国アンガス協会が78年に立ち上げたUSDA認定の最大かつ最も有名な高級牛肉ブランドである。
シルバー・ファーン・ファーム社のリマーCEOは、「我々のGHG排出量を管理することは他の誰でもない自分たちの責任である。NZでは自然との深いつながりがあり、環境に配慮することが我々の生活の一部となっている。ネット・カーボン・ゼロ・アンガスビーフを通じて、環境に配慮した方法で美味しい牛肉を生産できることを示していきたい」と述べている。
【調査情報部 令和4年5月12日発】
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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