欧州委員会、ウクライナ産農産物の輸出支援策を発表(EU)
欧州委員会によれば、ウクライナの穀物生産の75%は輸出に向けられ、同国の年間輸出額の約20%を占めている。ロシアによるウクライナへの侵攻以前、穀物と油糧種子の輸出のうち90%が黒海沿岸の港湾ルートを経由していた。また、輸出先はヨーロッパ、中国、アフリカ向けでそれぞれ3分の1程度であった。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻により黒海沿岸の港湾が封鎖され、ウクライナの農産物輸出が困難となったことから、代替的な物流ルートの確立が急務とされている。そのため、欧州委員会はウクライナ産農産物の輸出を支援する下記の対策を打ち出した。
1 連帯レーンの設置
欧州委員会は5月12日、ウクライナからの穀物輸出支援にとどまらず、必要な人道支援物資や生産資材の輸入も行えるよう「連帯レーン(Solidarity Lanes)」を確立する行動計画を発表した。
欧州理事会(EU首脳会議)で採択された5月31日付文書では、ロシアに対し、ウクライナの輸送インフラへの攻撃中止を求めるとともに、ウクライナ黒海沿岸の港湾の封鎖を解除し、特にオデーサからの食料輸出を許可するよう呼び掛けていくとした。加えて、EU加盟国に対し、欧州委員会が提唱する「連帯レーン」に関する作業を加速させ、ウクライナからの様々な経路による食料輸出を促進するよう要請した。
同計画は、現状、黒海沿岸の港湾が利用できない状況の中で、鉄道貨車やトラックがウクライナから欧州へ通過するまで平均16日間を要していること、また、鉄道のレール幅の違いにより、積み替え作業による多大な時間が発生していることなどからその作業時間の短縮化を目的としている。
欧州委員会は短期的措置として、民間への輸送車両や設備などの提供要請、加盟国におけるワンストップ窓口の設置やウクライナ産農産物の優先的取り扱いの要請、国境のターミナルへ移動式穀物積込機の設置などの対策を挙げている。また、中長期的にはウクライナの復興時の枠組みとして、新たな輸出インフラの整備やウクライナとの輸送接続を改善するプロジェクトに対する支援を行うとしている。
アディーナ・ヴァレアン運輸担当欧州委員は、5月12日付プレスリリースの中で「EUのインフラを利用して、3カ月以内に2000万トンの穀物をウクライナから輸出することを目標とした非常に大きな挑戦となる。短期的および長期的な解決策について、ウクライナ当局およびウクライナ近隣の加盟国と密接に連携していく」と述べている。
2 ウクライナ産農産物に対する輸入関税を1年間停止
また、欧州委員会が提案したウクライナ産農産物の輸入関税停止案(注)について、欧州議会は5月19日、農相理事会も5月24日にいずれも承認したことから、6月4日に発効した。この措置は、現在行われている割当制度の停止も含むことから、ウクライナの農産物のEUへの輸出が促進されることが期待されている。
(注)輸入関税停止案については、
海外情報「欧州委員会、ウクライナ産品に対する関税を1年間無税と提案(EU)」を参照されたい。
ウクライナ農業政策・食料省は5月19日付プレスリリースで、鶏肉、乳製品、はちみつ、トマトペースト、リンゴジュース、油糧種子を例に挙げ、中でも付加価値の高い製品の割当制度が停止されることは、ウクライナ産農畜産物のEUへの輸出を増加させるために大きなチャンスであるとして、今回の措置を歓迎している。
なお、牛肉、豚肉については動物衛生上の規制からEU向け輸出は認められておらず、鶏肉や乳製品については、EUの認可施設で生産されたものの輸出に限られている。
【調査情報部 令和4年6月9日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-8527