中国農業展望報告(2022−2031)を発表(野菜編)(中国)
最終更新日:2022年7月1日
中国農業農村部は2022年4月20日、中国農業展望大会を開催し、今後10年間の農業を展望する「中国農業展望報告(2022−2031)」を発表した。同大会は14年から毎年開催されており、今回は21年の総括と31年までの農畜水産物の生産量や消費量の見通しが報告された。本稿では、この中の野菜について紹介する。
1.2021年の動向
2021年の生産量は、作付面積が前年と同水準の約3.2億ムー(2133万3000ヘクタール)と安定した生産が行われたことから、前年比0.1%増の7億5000万トンとなった。同年の野菜の需給は第1四半期から第3四半期までは比較的緩んだ状況となっていたが、9月末から10月初めにかけて河南省、山西省、山東省で大雨洪水災害が発生し、秋野菜を中心に作柄が悪化したために一時的に需給がひっ迫したものの、補植や作付け拡大に取り組み、冬から春にかけての十分な野菜の供給を確保することができた。
輸出量は、同7.3%減の1111万トンとかなりの程度減少したが、輸出額は、同5.6%増の157億7400万米ドル(2兆382億円:1米ドル=129.21円(注))とやや増加した。そのうち主要な輸出品目であるにんにく(乾燥品および加工品を含む)は、輸出量が216万900トン(同13.3%減)、輸出額が26億6200万米ドル(3439億5702万円、同1.9%増)となり、野菜輸出総額の19.4%を占めた。20年以降、主要生産国の生産状況が厳しいことで国際市場からの中国産にんにくへの関心が高まっているが、海上運賃の高騰が響き、数量は前年を下回った。
消費量は、同0.5%増の5億6080万トンとわずかに増加した。新型コロナウイルス感染症の影響は継続しており、家庭内消費は増加しているものの、レストランなどでの業務消費は完全には回復していない状況にある。一方で、生鮮食品のeコマース、ライブショッピング、近隣コミュニティでのグループ購入など新たな流通形態がさらに発展、成熟し、生産地と消費地の間でより直接的な流通が行われるようになってきている。
また、価格面では主要野菜28品目の全国平均価格は同6.7%高の1キログラム当たり4.97元(97円(注))となった。年間の価格変動は基本的には例年通りに推移したものの、9月下旬以降の価格は高騰し、10月の平均価格は過去3年同月平均の25.9%高となった。根菜は比較的安定した価格推移となったが、葉茎菜類やきゅうりなどのウリ科野菜を中心に価格高騰が見られた。要因は主に2点とされ、1点目は9月下旬以降の長雨である。遼寧省、内モンゴル自治区、山東省、河北省などの北部の主要野菜生産地域が広範囲で長雨に見舞われ、収穫、出荷の切り上げが早まったとともに、次期作型の定植が遅れるなどの影響が発生した。2点目は北部の野菜が作柄不良となったため、野菜の地域間輸送が増え、輸送コストが増加したことである。21年以降、原油や石炭などのエネルギー価格が高騰しており、野菜生産および輸送コストが増加している。同年9月のガソリンおよび軽油価格は同20%以上、肥料価格は50%以上上昇し、1ムー(0.07ヘクタール)当たりの生産コストは400元(7792円)以上増加した。
2.2022年の動向予測
2022年の生産量は、前年度比0.8%増の7億5600万トンと予測され、安定した生産が継続するとみられている。
輸出量は、同16.6%増の1295万トンと大幅な増加が予測され、純輸出国として、日本をはじめ、韓国、米国などの主要輸出先への輸出が拡大していくとされている。
消費量は、引き続き順調な増加が見込まれ、同0.6%増の5億6400万トンと予測されている。前年に続き上述の新規流通形態の進展により消費量の増加がけん引されるとみられている。また、価格面では季節によって周期的な価格変動が継続する中で、前年比では人件費などの上昇により5〜8%の増加が見込まれている。
3.2031年までの動向予測
生産量は、順調に発展が継続し、安定した需給状況となっており、2031年には7億9200万トン(基準期間比<19〜21年の平均値からの増減率>7.2%増)に達すると予測される。現在の野菜の平均単収は1ムー当たり2200〜2300キログラム(1ヘクタール当たり33〜34.5トン)とされ、国民1人当たりの生産量は500キログラム以上となっており、国民が野菜の供給量を懸念することなく、野菜の品質を求める時代へと移行しているとされる。土地や水資源の制限もあって、今後の野菜生産の目標は規模拡大ではなくなり、作付面積は3億ムー(2000万ヘクタール)以上で長期間にわたり安定するものと予測される。特に近郊農業での野菜生産が安定して行われ、施設園芸栽培が拡大するとともに、機械化およびスマート農業の進展、肥料や農薬の使用量を削減した高効率かつ環境保全型の農業への変化が予測される。また、独自の優良品種の生産割合も拡大が進むと見込まれる。これらにより、野菜生産構造の最適化や社会への野菜供給体制の改善が進み、品質および安全性の向上と経済的利益の向上が見込まれる。
輸出量は純輸出の状況と安定した成長が続き、31年には1353万トンに達すると予測される。国民の野菜消費について特に高級野菜や多様な野菜の需要が増加する一方で、輸出型加工産業も発展し、貿易活動の活発化が見込まれる。野菜の主要貿易相手は日本、韓国、米国、ASEAN、EUなど、輸出の主要品目はニンニク、キノコ、トマト、ショウガ、唐辛子などが見込まれる。取引量の増加率では輸出よりも輸入のほうが大きくなる可能性があるものの、輸出に比べ輸入の規模はまだまだ小さい状況が継続する。
時代とともに生産および流通、販売形態が変化していく中で、31年の消費量は6億300万トンに達すると予測される。新規流通形態の発展や生活水準の向上などにより野菜消費の多様化が進むとともに、調理済み製品などの消費が増加することも野菜の消費量増加に寄与するとみられる。また、地域間輸送の重要性も増していくとともに、優れた加工技術や設備の普及により加工野菜の製造規模の拡大が進み、加工野菜の消費量も増加する一方、普及に伴って損失割合は減少傾向となると予測される。
価格面では、周期的に変動する中で上昇していくものと予測される。農林業の中で野菜生産は比較的収益性の高い分野であるが、人件費が年々上昇しており、12年以降、収益性は低下傾向にある。そのため、今後10年間は野菜産業が労働集約型から技術集約型に転換する時期を迎えるとみられるが、人件費の上昇に伴い、引き続き野菜価格の上昇が継続するとみられる。また、消費者の健康的な食生活へのニーズが高まる中で高品質なブランド野菜の生産がますます増加していくとされ、それに伴い野菜単価の上昇も予測される。一方で、自然災害や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を代表する世界情勢の変化、インターネットの急速な発展に伴う新たな野菜流通形態などが野菜需給に影響する不確定要素として挙げられている。洪水、干ばつ、寒波などの災害は野菜の収量および品質に影響を与え、全国的に生産地と消費地の結びつきが強化された現代では、局所的な作柄が全国の需給に影響を起こしやすい状況となっており、自然災害が野菜需給に悪影響を与えるリスクは依然として高い状況にある。また、COVID-19による世界経済への影響は依然として厳しい状況にあり、野菜輸出国である中国にとって大きな課題となっている。
(注)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年5月末TTS相場。
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農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
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