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ニュージーランドとEU、FTAで大筋合意 (その2:ニュージーランド側の措置と反応)

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 ニュージーランド(NZ)政府は2022年7月1日、EUとの自由貿易協定(FTA)について、大筋合意したことを発表した。これにより、EU向けの牛肉および乳製品については、本FTAの発効後1年目から、既存の関税割当数量枠の枠内関税が引き下げられるとともに、新たな関税割当数量枠が設置されることとなる(注1)
(注1)主な畜産物貿易に関する合意内容の詳細は、海外情報「EUとニュージーランド、FTAで大筋合意(その1:EU側の措置と反応)」を参照されたい。

 NZのアーダーン首相は声明の中で、今回の合意により、35年以降のNZの対EU輸出額は年間最大18億NZドル(1564億円:1NZドル=86.89円(注2))増加する見込みであり、21年10月に合意した英国とのFTAの内容を超える成果であるとしている。
 また、同国のオコナー貿易相は、新たな関税割当数量の設置により、乳製品と赤身肉産業に年間6億NZドル(521億円)以上の輸出収入をもたらし、NZ産牛肉のEU市場へのアクセスは現在の8倍に増加するとしている。
(注2)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の22年6月末TTS相場。
 なお、近年のEU向け牛肉、バター、チーズの輸出額は減少傾向で推移しているが(図)、これについてNZ政府は、新型コロナウイルス感染症(COVID−19)の影響に加え、EU側の関税と割当枠の制限によるものとしている。
図 NZからEUへの畜産物輸出額の推移
 一方で、現地報道によると、NZの畜産関係者は、本合意が期待を大きく下回る結果であるとし、失望感を示している。主な畜産関係者が発表している声明は、以下の通りである。

ビーフ&ラムNZ(B+LNZ)およびNZ食肉産業協会(MIA)

 本協定により7年間で1万トンの新たな関税割当数量が設けられたが、この割当数量は年間650万トンの赤身肉を消費するEU市場ではごくわずかであり、我々の業界の期待を大きく下回っている。NZ産の赤身肉は、EU市場で不利な立場に置かれ続けることになる。

NZ乳業協会(DCANZ)

 市場規模に対して非常に少ない関税割当数量枠と制限的な枠内関税の組み合わせにより、本協定の合意は酪農乳業にとって商業的な意味を持たない。バターとチーズの関税割当数量枠の増加は、EUの消費量のわずか0.14%に過ぎない。乳製品はNZからの輸出全体の28%を占め、COVID−19からの経済回復の柱となっていることを踏まえると、本合意内容はNZ経済全体にとって相当の機会損失となる。また、NZの酪農家は、農場での持続可能な生産に多大な努力を払ってきたにも関わらず、本合意ではそれに見合うだけの市場評価を得ることができず、失望することになるだろう。

フォンテラ

 バター、チーズ、粉乳などの製品については、わずかな割当数量枠や枠内税率などにより、EU市場の規模に比べ商機が制限される。また同時に、9年の移行期間を経て「フェタ」という名称が使用できなくなる(注3)ことなどから、乳製品に関する本合意内容は、非常に残念な結果である。
(注3)本合意の地理的表示(GI)の項目において、NZのフェタチーズの生産者が、最大9年の移行期間の後に、この名称の使用ができなくなるとされている。また、パルメザンチーズとグリュイエールチーズについては、既存の生産者はこれらの名称を引き続き使用することができるが、今後新たにこれらのチーズ生産に参入する者は使用することができないとされている。
 今後両国は、署名および発効に必要な国内手続きを踏んでいくとしている。
【調査情報部 令和4年7月11日発】
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 調査情報部 (担当:国際調査グループ)
Tel:03-3583-9530