シンガポール食品庁(以下「SFA」という)は6月30日、インドネシアからの冷凍鶏肉および加熱加工された鶏肉調製品の輸入を承認した(注1)。シンガポールは、冷凍鶏肉または鶏肉調製品の輸入先として20以上の国・地域を承認している。一方で、生体鶏の輸入が承認されているのは隣国のマレーシア(マレー半島産)のみであり、輸入された生体鶏はシンガポール国内で処理し、流通されている。SFAによると、2021年のシンガポールの鶏肉総供給量は21万4400トンであり、その48%をブラジルから、34%をマレーシアから輸入していた(図1)。
しかしながら、昨今の飼料高騰によりマレーシア国内の鶏肉生産者の経営状況は厳しくなり、生産規模の縮小から一部で鶏肉の供給が停止し、価格の上昇や輸出への影響が生じていた(図2)。このためマレーシア政府は、国内への鶏肉供給の安定を目的に6月1日より生体鶏および鶏肉の輸出を停止している(注2)。
宗教的な制約がない鶏肉は、多民族国家であるシンガポールで広く消費されているため、鶏肉供給の多くをマレーシア産に依存していた同国は、急遽、ブラジルに加え、主要鶏肉輸出国であるタイのほか、米国や豪州などからの輸入拡大を模索していた。今回のSFAによるインドネシア産鶏肉の輸入承認もその一環と推測される。
現地報道によると、インドネシア家きん育種協会会長は、「(マレーシアからの)生体鶏の輸出が停止したことにより、シンガポールの食鳥処理場や生鮮市場などは深刻な影響を受けている。このため、本来は生体鶏の輸出が望まれているが、インドネシア国内の生産者は生体鶏での輸出経験が乏しく、冷凍鶏肉での輸出を希望している」と述べている。シンガポールでは「海南鶏飯」と呼ばれるチキンライスが国民食の1つに挙げられるなど鶏肉の需要は高いことから、引き続き国内の供給安定の観点から輸入先の多様化が進むとみられている。
(注1)生鮮鶏肉の輸入は承認されておらず、同日時点では冷凍鶏肉で2社、鶏肉調製品で1社が承認済であり、うち1社は7月中の冷凍鶏肉輸入を見込んでいる。なお、インドネシアからシンガポールへの輸出を希望する企業は個別にSFAによる承認が必要。
(注2)当該措置は鶏肉供給が安定するまでとされ、現時点で期限は設けられていない。なお、6月中旬から一部在来種の生体鶏輸出規制が緩和されたものの、生体鶏輸出の中心であったブロイラーの輸出規制は緩和されていない。規制緩和された一部在来種は一般的にブロイラーよりも高値で取引される品種とされる。