ウクライナ産トウモロコシを巡る情勢(その1)〜生産見通し〜
2022年のトウモロコシの作付面積は前年比1割減
ウクライナ農業政策食料省が公表した春穀物および油糧種子の作付け状況によると、2022年6月16日時点で1416万ヘクタールに作付けが行われ、前年の1692万ヘクタールから16.3%減少した。
現地報道によると、ロシアの侵攻による農地の喪失は耕地全体の3割と推定されている。また、最も被害の大きい地域は、激戦地とされる北東部、東部、南部となり、特に南部のケルソン州の作付面積は前年の5割程度に減少と推測されている。
同省によると、作付面積が減少する中で、生産者は販売価格の高い油糧種子を作付けする傾向にあり、食料安全保障に重要であり資源投資が少ない春小麦や化学肥料の施肥が少ない大豆の作付面積はほとんど減少せず、一部地域では拡大がみられるとしている。
一方で、同国最大の穀物生産量(注)を誇るトウモロコシの作付面積は、前年の514万ヘクタールから464万ヘクタールへと減少(前年比9.7%減)している(表1)。国連食糧農業機関(FAO)が22年3月に発表した「紛争がウクライナの食料安全保障に与える影響に関する留意事項」によると、トウモロコシはロシアの侵攻開始時点で1200万トンの在庫(旧穀)があり(小麦は700万トン)、黒海を利用する輸出ルートが封鎖されているため、収容能力の問題などから新穀の収穫への影響が懸念されている。また、輸出が困難であることや在庫の多さから国内トウモロコシの価格が前年から4割下落したとの情報もあり、これらも作付けを行う作物の決定に影響を与えているとみられる。
(注)米国農務省(USDA)の資料によると、2021/22年度の穀物生産量はトウモロコシ(2300万トン)、小麦(1900万トン)、大麦(580万トン)。
また、同省によると、今期の作付けについては必要な化学肥料の8割以上、種子の7〜8割、農薬の6割、燃料の3割が確保できているとしている。しかしながら、現地報道によると、農地の損失に加えて、農機具、建物、貯蔵サイロや農作業用車両の被害も大きく、今後の作物の育成・収穫が順調となる保証はないとしている。
2022年のトウモロコシ生産量は前年比3割弱減の見込み
同省の6月13日付けプレスリリースによると、2022年の穀物、豆類、油糧種子の生産量は、国内消費用に6500万トン、輸出用に3000万トンとの見通しを示している。
ウクライナ穀物協会(UGA)が7月6日に発表した22年の穀物の収穫見通しでは、穀物・油糧種子の生産量を6940万トンとし、輸出については、現状では約2500〜3000万トン程度、国境の通関能力が大幅に向上されると3150万トンまで伸びると予測している。このうち、トウモロコシの生産量については前年の3760万トンから2730万トンまで減少(前年比26.6%減)するとし、うち1000万トンが輸出可能と見込んでいる。生産量減少の要因としては、作付面積の減少に加え、化学肥料の高騰による使用量減少などからの単収(1ヘクタール当たり5.9トン程度)の減少が考えられる。
一方で、7月12日付けの米国農務省(USDA)による見通しでは、今期のウクライナのトウモロコシ輸出を900万トンと見込んでいる。
ウクライナ国家統計サービスによると、21年のトウモロコシ生産は、単収が1ヘクタール当たり8トン(直近5年平均は6.6トン)と伸びたことで、生産量は3982万トン(同2745万トン)と大幅に増加した(表2)。22年の収穫見通しは前年比では大幅な減少が予測されているが、直近5年平均と比べると必ずしも大きな減少とはなっていない。
【調査情報部 令和4年8月2日発】
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